サウサンプトン残留の背景にあった変革と、その中心にいた「素晴らしい男」吉田麻也

2018年05月15日 竹山友陽

本拠地でのサポーターの“控えめな拍手”。

プレミアリーグ残留という目標を何とか達成した吉田が、悪戦苦闘のシーズンを振り返った。 (C) Getty Images

 試合の残り時間は数秒だった。

 5月13日のプレミアリーグ最終節、サウサンプトン本拠地セント・メリーズは、共に降格争いをしていたスウォンジーが負けているとの速報を受け、プレミア残留が決定的となったため、ホームサポーターたちの熱気に溢れていた。

 しかし、0-0での引き分けが妥当だと誰もが思っていた中での瞬時の出来事だった。

 自陣深くでスローインからボールを受け取ったマンチェスター・シティのケビン・デ・ブルイネが、サウサンプトンのDFライン裏へ向けて、「ここしかない」という正確無比なパスを放り、これにガブリエウ・ジェズスが鮮やかなボールコントロールで抜け出して、冷静なチップシュートを決めたのだ。

 一瞬、スタジアムが無音状態となった後、ピッチではベンチからシティの選手とスタッフがなだれ込んで、ファンと歓喜の輪を作っていた。
 

 この勝利でシーズン勝点100という偉業を成し得たシティ。指揮官ジョゼップ・グアルディオラが作り上げた、人々の記憶に鮮明に残る、美しく、そして圧倒的な強さを誇るチームは、プレミアリーグの歴史も塗り替えた。

 就任2年目を迎えたグアルディオラは、フィジカル中心のイングランド・フットボールにバルセロナ的なサッカーは通用しないという批判を跳ね返し、サッカーの母国の価値観をも変えつつある。文字通りゲームチェンジャーである。

 さて、そんな今シーズンの王者に屈したサウサンプトンだが、試合の出来は決して悪くなかった。5–4–1のフォーメーションでブロックを形成し、シティがプレーできるスペースを消して、相手のチャンスの数を減らすことに努めていた。

 しかしながら、集中力が切れた約3秒間で、シティに隙を突かれた。チャンピオンになるチームが発揮する、勝負を引き寄せる強さにしてやられたのだ。

 試合終了のホイッスルが吹かれた直後、シティの選手たちの雄叫びが鳴り響いたスタジアム。そのなかで、サウサンプトンのファンがプレミア残留を祝う"控えめな拍手"も聞こえてきた。
 

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