【小宮良之の日本サッカー兵法書】「平常心」「冷静さ」が限界突破の可能性を奪ってしまうことも!?

2018年05月11日 小宮良之

絶対的な正義とされているが…

「心は熱く、頭はクールに」が正しいとされているが、頭も熱くなったことが良い方向に作用することもある。「スイッチ」のありかは人それぞれということだろう。写真は、リーガ第36節「エル・クラシコ」でのメッシ。 (C) Getty Images

「アルゼンチンと戦う時には、『メッシを激しく削るな』が合い言葉だった。なぜなら、挑発するようなプレーをすると、"目覚めてしまう"からね。決して、メッシを起こしてはならなかったんだ」
 
 元ブラジル代表MFのジュリオ・バチスタの言葉は、とても興味深い。
 
 サッカーのピッチにおいては、平常心を保つことが尊ばれる。泰然たる山のように、何事にも動じない。静かな湖面のような心持ちというのか、心を乱さずにいることで、いつも通りのプレーができるし、消耗も少ないといわれる。アスリートのメンタルトレーニングにおいては、平常心を培うような訓練もあるという。
 
「いつも通りに行け」
 
 そういわれるのが常だが、それが難しいのが、スポーツ競技である。その意味では、「平常心」は絶対的な正義なのかも知れない。
 
 しかし、大一番の戦いで勝負を決めるのは、時に「怒り」だったりする。怒った後、何かに突き動かされたメッシは止められない。高ぶった感情で放った「二度と繰り返せないようなプレー」が奇跡を起こすのだ。
 
 怒りは、平常心の反意語だろう。「絶対に負けない」「目にもの見せてやる」「思い知れ」……。それらの感情に振り回された状態は、最近のスポーツメンタルにおいては、マイナスに分類される。
 
 しかし結局のところ、際の勝負で分岐点になるのは、こうした気概の部分である場合が少なくない。
 
 1990年代から2000年代にかけて、ガイスカ・メンディエタというMFがいた。バレンシアでは2年連続チャンピオンズ・リーグ(CL)決勝進出の原動力となり、ラツィオ、バルセロナ、ミドルスブラと、各国の有力クラブに所属。EURO2000、02年日韓ワールドカップでは、スペイン代表として出場している。
 
 よく走り、よく攻め、よく守る。トータルな能力が高く、当時、欧州最高のMFのひとりといわれた。
 
 しかし、メンディエタはタイトルに恵まれていない。これだけ活躍しながら、20代前半で手にしたコパ・デル・レイ(98-99シーズン)ぐらいである。

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