元アーセナル戦士の独白(1)――恩師ヴェンゲルへの熱き想い「ファンは彼を分かっていない」

2017年11月22日 羽澄凜太郎(サッカーダイジェストWeb)

なぜ、いかにしてアーセナルへの加入は決まったか?

浅草寺の前で決めポーズを取るエブエ。我々の要求にも難なく応じてくれるあたりは流石、元プレミアリーガーだ。 写真:山崎賢人(サッカーダイジェスト編集部)

「日本の文化は気に入っている。凄くクールだよね」
 
 そう言う元コートジボワール代表DFのエマヌエル・エブエは、浅草観光を楽しんでいた。仲見世で作務衣を羽織り、雷門の前でポーズをとる様は、他の観光客よりも日本を楽しんでいるように見えた。
 
 そんな韋駄天DFに話を聞くことができた。クラブ公認のファンクラブ『アーセナルジャパン』の設立15周年パーティーに参加したエブエは、観光を楽しむ合間に我々の取材に応じてくれたのだ。
 
 話題は、脚光を浴びたアーセナル時代のアーセン・ヴェンゲル監督との秘話や、プロフットボーラーとしてのこだわりなど、多岐にわたった。初対面の筆者に対しても気軽に、冗談を交えながら応対してくれたエブエの言葉をお届けする。
 
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 そのキャリアにおいて、最も彼にスポットライトが当たっていたのは、2005年1月に加わったアーセナル時代だ。
 
 01年に母国コートジボワールの名門ASECミモザでプロキャリアをスタートさせたエブエは、2002年の夏にベルギーのベベレンに加入。3シーズン、プレーした後、アーセナルからオファーを受けるが、彼に声をかけたのは、他ならぬヴェンゲル自身だったという。
 
「ある日の試合後、ロッカールームに戻ったら、ヴェンゲル監督がそこに居たんだ。チームメイトと握手を交わしたのちに、僕に声をかけてくれたんだよ。『アーセナルに来たいか? ならば、6か月待っていてくれ。必ず獲得するから』ってね」
 
 名将から異例とも言うべき直談判を受けたエブエは、この時、シャフタール・ドネツク、マルセイユ、セビージャから具体的なオファーを貰っていたが、「メガクラブに行くこれ以上ないチャンスだと思ったんだ」と、いずれの契約にも応じず、半年間の残留を決意。そして、05年1月に正式にアーセナルへと移籍した。
 
 晴れて世界屈指の名門クラブの敷居を跨いだエブエだが、屈強な戦士たちが集うプレミアリーグにおいて、彼はまだ線が細く、加入当初は「『小僧じゃないか。本当に大丈夫か?』と周囲から実力を疑われた」という。実際に最初のシーズン、リーグでの出場はわずか1試合に止まった。
 
 しかし、そうした容赦ないプレッシャーからの盾となってくれたのは、恩師ヴェンゲルだった。フランス人指揮官は、「大丈夫。必ず、エマヌエルはやってくれる」と周囲の騒音を払いのけ、プレーにのみに集中できる環境をエブエに提供したのだ。
 
 本人は当時の心境を、次のように語っている。
 
「もちろん緊張したよ。ティエリー・アンリやパトリック・ヴィエラ、ソル・キャンベルといった、テレビで見ていた偉大な選手とプレーするんだからね。でも、僕の中では『夢が叶った』という気持ちの方が大きかったんだ」
 

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