上昇傾向のアーセナルに渦巻く疑問――エジルは本当に必要か?

2017年09月21日 内藤秀明

ファンを憂鬱にさせた8月から調子は上向きつつある。

今シーズン、公式戦の出場はプレミアリーグの4試合のみというエジル(中央)。ゴール、アシストともにゼロと、物足りなさは否めない。 (C) Getty Images

 どれだけ移籍金を出し渋り、どれだけ怪我人が増えようとも、チャンピオンズ・リーグ圏内の4位には滑り込む――。それが、アーセン・ヴェンゲルのアーセナルだった。しかし昨シーズン、ノースロンドンのチームはとうとう、その最低限のミッションに失敗した。
 
 雪辱を期して迎えた今シーズン、開幕当初は「嫌な予感が当たってしまった」といったところだった。
 
 移籍市場では、アレクシス・サンチェスとメスト・エジルの主戦級に退団の噂が相次いで、チームの混乱ぶりが露呈。実際に8月の結果は、プレミアリーグで1勝2敗と、躓いた印象が否めなかった。
 
 2節のストーク戦(8月20日)では、相手の3バックをこじ開けることができずに0-1と惜敗、さらに3節のリバプール戦(8月27日)では、0-4と為す術なく敗れた。とりわけアンフィールドでの大敗は、枠内シュートなしという惨憺たる内容で、多くのファンを憂鬱にさせた。
 
 チーム全体が俯き加減だったアーセナル。しかし、9月に入って風向きが変わりつつある。公式戦で3勝1分と、無敗を維持しているのだ。なかでも、スコアレスドローに終わったものの、5節のチェルシー戦(9月17日)のパフォーマンスは、大きな手応えを得られるものだった。
 
 では具体的に、上昇傾向にあるアーセナルのポジティブな要素とは何か? それは大きく見て3つある。
 
 1つ目は、8月は崩壊していた最終ラインが機能した点だ。
 
 3-0と完封勝ちを収めた4節のボーンマス戦(9月9日)で、初めて揃ったロラン・コシエルニー、スコドラン・ムスタフィ、ナチョ・モンレアルの3バックは、翌節のチェルシー戦を含め、守備に絶妙な安定をもたらした。
 
 今シーズンのアーセナルは、この3人が揃っていない試合では4戦で9失点を喫しているが、9月に入って彼らが最終ラインに並んだ2戦では、いずれも無失点。この事実からだけでも、効果は一目瞭然だ。
 
 2つ目に挙げられるのは、それまで3バックの一角を担っていた新加入のセアド・コラシナツを、本職の左ウイングバックに戻した点だ。その推進力は、チームの攻撃に大きな幅をもたらしている。
 
 これまでのアーセナルは、引いて守るチームを相手に攻めあぐねることが多かったが、コラシナツのようなパワフルさがウリで、強烈なミドルシュートも兼ね備えたサイドアタッカーがいることで、相手を釣り出す効果が生まれているのだ。
 
 そして3つ目は、今夏の目玉補強であったアレクサンドル・ラカゼットが、即座にフィットした点だ。フィジカル重視のイングランドでも十二分に戦えるタフネスさを持つフランス代表FWの落ち着いたシュート技術は、強者が揃うプレミアにおいても屈指と言える。
 
 加えて、ポジション修正を繰り返し、裏に抜ける動きはもちろん、ビルドアップの起点になるオフ・ザ・ボールの動きも巧みで、チームの攻撃に厚みを加えている。

次ページ今のアーセナルにエジルの居場所は…。

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