日本代表、井手口陽介のルーツを辿る~その才能はいかにして磨かれたのか(前編)

2017年09月03日 高村美砂

"楽しさ"を追い求めて──

油山カメリアーズ時代。加藤監督は、「楽しいと思う気持ちと負けず嫌いの性格が合わさると最強だった」と振り返る。写真提供:井手口亜紀子

[サッカーダイジェスト2017年2月9日号より加筆・修正]
 

 小学校時代の恩師と、G大阪ユースの指導者たちが口を揃えて、「サッカーを知っている」と評したのは、偶然ではないだろう。井手口陽介のプレーは、まだ20歳とは思えないほど成熟している。だが、彼を突き動かすのは「楽しいか、楽しくないか」、その直感だけだ。

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 サッカーに対して、深く考えることはまずない。厳密には、考えることがあまり好きではないと言うべきか。時に逆境にぶち当たっても、なにかしらの選択を迫られても。その時々で彼の基準になるのは、「楽しいか、楽しくないか」。子どもの頃からその直感だけに従って、ボールを蹴ってきた。

 もっとも、プロの世界ではそれだけではダメだという考えもないわけではない。自分の意に反していても、場合によっては「受け入れる」ことも必要だと、感じ始めている。だが、それでも井手口陽介は「楽しくなければサッカーじゃない」と言う。

 ガンバ大阪でボランチの定位置を掴もうと、リオデジャネイロ五輪の代表メンバーに最年少で選ばれようと、ルヴァンカップのニューヒーロー賞やJリーグのベストヤングプレーヤー賞を手にしても、さらには日本代表に選ばれても、そこに「楽しい」という感覚が伴わなければ、どんな栄誉も素直には喜べない。

 2016年11月、20歳にして初めて日本代表に選出され、その活動を終えてクラブに戻ってきた時の言葉が印象深い。

「初めての代表は……まったく楽しくなかった。試合も外から見ていただけでしたしね。早くこっちに帰ってきてサッカーをしたかった」

 上辺を取り繕うことがない、井手口らしい言葉だった。 
 

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