好調・名波ジュビロの「パチンコ玉カウンター」。アッズーリの香り漂うメカニズムを解き明かす

2017年08月19日 清水英斗

磐田の快進撃を導いた名波監督が振るったタクトとは。

磐田を率いて4年目の名波監督は、3バック、4バック、5バックを使い分ける。柔軟に形を変えながら、攻守に連動する戦術を浸透させたその手腕は、実に素晴らしい。(C)SOCCER DIGEST

 J1リーグ19節の川崎フロンターレ戦に5-2で勝利し、ジュビロ磐田が6連勝を飾った。まさしく破竹の勢いである。
 
 ユニホームの色が似ているから、というわけではないが、最近の磐田は、アントニオ・コンテが指揮したEURO2016のイタリア代表を想起させる。守備の段階に応じて3バック、 4バック、5バックを使い分ける。ボールの奪いどころを明確に定め、ゾーンの網に誘い込む。そして、そこからカウンターを繰り出す流れもスムーズ。あのアッズーリ(イタリア代表の愛称)と今の磐田には、多くの共通点を見出せる。
 
 今季途中から、磐田は3バックを本格的に導入した。それはコンテのイタリア代表と同じく、守備の段階に応じて形を変える。まず敵陣の高い位置、ハイプレスゾーンでは3-4-3。そこから少し下がった位置、センターライン付近で網を張る時は、両ウイングバックを下げて5バックに。同時に右サイドの中村俊輔も下がって5-3-2に変形し、川又堅碁とアダイウトンの2トップをカウンターの充電者として前線に残す。
 
 この時、アダイウトンが下がってこない左サイドにスペースが生まれるが、ここにパスが出れば、左ウイングバックの宮崎智彦がゾーンを飛び越えてカバーする。そして残った4人のDFは左サイドへスライド。つまり、磐田の5バックはべたっとラインを敷くわけではなく、各DFが縦パスに対して果敢にアタックし、5-3-2を4-4-2に変形させながらディフェンスラインを高く保っている。同じ仕組みはEUROのイタリア代表にも見られた。
 
 この守備は、カウンターの威力を増大させる。5-3-2で薄くなった〝ように見える〞中盤に、相手の縦パスを誘い込み、5バックのDFが前向きにアタックしてこれを潰す。そして、奪ったボールを素早く2トップへつなぐ。上手くタイミングが合えば、パチンコ玉が弾かれるように、きれいにカウンターが決まる。
 
 例えば、川崎戦の55分の得点シーンだ。右ストッパーの高橋祥平は、相手の縦パスが流れたところをダイレクトに打ち返し、川又の足下につけた。どんなに切り替えが早くても、 ダイレクトに打ち返されたパスに反応し、潰すのは不可能に近い。そして、起点となった川又からのパスを、センターハーフの位置から駆け上がった川辺駿が受け、ドリブルで持ち込んで貴重な3点目を決めている。
 
 同様に左サイドでも、森下俊や宮崎がダイレクトに縦パスを打ち返し、アダイウトンを起点としたカウンターを繰り出す。〝ダイレクト〞に加え、特筆すべきは3人目の動きとなる川辺やムサエフの長駆のフリーランだ。前線の選手を追い越す彼らのダイナミズムが、磐田のカウンターをより迫力あるものに仕上げている。

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