【黄金世代・復刻版】遠藤保仁メモリアル ~ シドニー五輪秘話「進撃の裏側で」(後編)

2017年06月05日 川原崇(サッカーダイジェストWeb編集部)

「気持ちを押し殺して一緒に『ヤッター!』とか言ってるんだけど」。

大会中はずっと、中村俊輔(中央の黄色ビブス)と同部屋だった。お互いに核心には触れず、他愛のない話をしていたという。(C)SOCCER DIGEST

【週刊サッカーダイジェスト 20001018日号にて掲載。以下、加筆・修正】
 
 続く第2戦のスロバキア戦でも、日本は2-1と勝利を飾る。
 
 中2日で試合という日程から、疲労は確実にチームをむしばんでいたが、連勝している事実がそれを感じさせない。チームの明るさも相変わらずだったという。

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 やがて日本は、うららかな陽光が立ち込めるブリスベンへ移動し、決勝トーナメント進出を賭けた運命の一戦に挑む。相手は2位のブラジルだ。日本は本気の王国と、一戦を交えることとなった。
 
「本気で来てた時間帯はさすがに強烈だったけど、ブラジルはチーム自体、大したことがなかったように思う。みんなもやりながら、そう感じてたんじゃないかな。南アのほうがよっぽどインパクトがあったからね。

 日本はグループリーグを突破する力があったと思うし、結果的に上へ行けたのも当然だと思ってた。でも、スゴイことをやったんだなって感じる反面、やっぱ複雑なところはありましたよ。目の前で試合はやってる。自分がそのピッチにいないってことがね。

 ロッカールームに戻って、みんなはやっぱ、喜んでるわけじゃないですか。そこに入って行きづらいというか、自分の気持ちを押し殺して一緒に『ヤッター!』とか言ってるんだけど、どこかで冷めてる自分もいる。とにかく苦しかった。あれはきっと、僕ららにしか分からないっすよ」
 
 遠藤のルームメイトは、ずっと中村俊輔だった。
 
 試合に関する話はほとんどせず、たまに中村が感想を聞く程度だったという。
 
 中村にも遠藤にも、それぞれ語りたい想いがあっただろう。左サイドに配置されることの多かった中村は、中央のポジションでプレーできないことへのもどかしさがきっとあっただろうし、遠藤には、試合に出られないという厳然たる現実があった。
 
 だがいまは、戦いの最中である。決して気遣いではない暗黙の会話が、ふたりの間で交わされていた。
 
「どうってことない話ばっかりですよ。シュン(中村)とは性格が合うみたいで、サッカー以外のいろんな話をしたし、同部屋になって良かったなって、お互いに言ってました。日本に帰ってから僕のカバンをひとつ譲ることにもなったしね(笑)」
 

次ページいつしか、ゲームを観る側へと回っていた。

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