【小宮良之の日本サッカー兵法書】 寡黙なジダンがなぜ、タレント集団を操れるのかを考えてみよう

2017年05月11日 小宮良之

サブに甘んじているスペイン代表FWすら指揮官に信頼を寄せる

マドリーを2シーズン連続のチャンピオンズ・リーグ決勝進出に導いたジダン。まだキャリアは浅いが、監督としても日に日にその価値を高めている。バランスの取れた指揮官と言えよう。 (C) Getty Images

「今日の試合は集中していくぞ! 絶対に負けられない試合だ!!」
 
 多くの監督が、選手たちに向かってこう言う。それは常套句だろう。集中するのは当然のことだし、負けていい試合などない。しかしこれは掛け声のようなものであり、チーム全体を奮い立たせる効用を期待して発せられているのだろう。
 
 ただ、このようなメッセージを繰り返し使うだけの監督は、リーダーとして必要な求心力を持たない。
 
「くどい……」
 
 むしろその言葉の連呼は、選手たちを辟易させる。
 
 なぜなら、彼らは即座に感じ取れるからだ。
 
――監督がこうした精神論を持ち出す時、それは監督自身が勝負に対して自信を持てず、臆病になってしまっている――
 
 自信がないからこそ、人は同じ言葉を繰り返す。負けが怖いからこそ、しつこいほど何度でも言う。怯懦(きょうだ)に飲み込まれてしまっている。だから、自分に言い聞かせるように言うのである。
 
 当然だが、これは選手にとっては逆効果だ。
 
 リーダーのコミュニケーション力についてはしばしば語られるが、何も饒舌だから好ましい、ということはない。物言わぬ不動の存在になることで、チーム全体が臆さずに戦える、ということもある。
 
 話が説明的過ぎたり、単純な根性論だけだったりと、むしろ話せば話すほど、何も伝えられないというケースもあるのだ。
 
 その点で、天才的に上手いのがレアル・マドリーの指揮官、ジネディーヌ・ジダンだろう。
 
「ジダン監督は、自分たちのことをよく分かっている。だから、その決断を心の底から信頼しているよ」
 
 FWのアルバロ・モラタは語る。彼は、「先発組」の選手ではない。スペイン代表ながら、サブに甘んじている若手だ。そんな選手の口から、このような言葉が飛び出すのだ。
 
「ジダン監督なら、一番良い時には必ず使ってくれるはずだから」
 
 選手たちがそう思える信用が、このフランス人指揮官にはあるのだと言う。それによって、選手は100パーセントに近いプレー、もしくはそれ以上のプレーを見せることができる。

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