【プリンス関東参入戦】王者たちが繰り広げた死闘。そこに“単なる敗者”はいなかった

2016年12月26日 川端暁彦

理不尽な結末と歓喜の瞬間が相半ばする

様々な想いを胸に王者8チームが鎬を削ったプリンス関東参入戦。千葉U-18と昌平の決定戦も延長にもつれ込む激闘に。写真:川端暁彦

 1年間に及ぶ激闘の栄誉が、たった数試合の結果によって、まるでなにもなかったかのように吹き飛んでしまうかもしれない。リーグ戦後のプレーオフは、きわめて理不尽なシステムに違いない。12月23、25日に行なわれた「高円宮杯プリンスリーグ関東・参入決定戦」はそうした理不尽な結末と、それゆえの歓喜の瞬間が相半ばする大会だ。
 
 千葉県の市原スポレクパークに集ったのは関東8都県のチャンピオンたち。ジェフ千葉U-18(千葉)、日本航空(山梨)、昌平(埼玉)、日大藤沢高校(神奈川)、佐野日大(栃木)、成立学園(東京)、鹿島学園(茨城)、そして前橋商(群馬)といった顔ぶれで、Jユースと強豪校による来季プリンスリーグ参入への権利を懸けた戦いだ。

2017Jクラブ・新卒入団&昇格内定者を一挙に紹介
 
 12月の下旬というタイミングゆえの難しさもある。とりわけ全国高校サッカー選手権への出場を果たせなかったチームは、まずモチベーションの維持に困難が伴う。
 
 大学受験や次の進路を考えて部活を辞めたいという選手が出てくるのも、日本社会においてはごく自然な流れだけに、日大藤沢の佐藤輝勝監督が「それでも残ってくれた6人の3年生には本当に感謝している」と繰り返し強調していたのが印象的だった。裏を返して言えば、選手権予選で敗退した4校(日本航空、昌平、日大藤沢、成立学園)の3年生は、それだけ複雑な心理状態を抱えながらチームに残り、大会へ臨んだということだ。
 
 1回戦では、そんな日大藤沢と昌平が激突。激戦リーグを制したチーム同士らしいシビアな攻防戦となったが、昌平が3-0で勝利。71分に生まれた決勝点は、ジュビロ磐田入団内定のMF針谷岳晃(3年)が無回転FKで決めたスーパーゴール。日大藤沢の佐藤監督が「こちらも魅了されるような素晴らしいシュートだった。認めないといけない」と脱帽した、個の力による1点だった。
 
 左サイドの角度の乏しい位置から逆サイドへと射抜くスペシャルなFKは、しかし偶然の産物ではない。選手権予選敗退後、「本当に悔しくて、ずっと引きずっていた」(針谷)と語る男は、無回転FKの練習を新たに開始。「蹴ってみたら意外と蹴れた」というのはセンスというほかないが、悔しさを悔しさのままに終わらせることなく、新たな武器の習得に時間を費やするあたりが、いかにも針谷"らしい"。
 
 昌平の藤島崇之監督は「どうしてもマンネリになってしまうから」と、選手権終了後からチームを改造。サンフレッチェ広島入りが決まっているMF松本泰志(3年)を左サイドからトップ下にコンバートし、注目FW本間椋(3年)を左MFに移すなど新たなトライをさせることで、"選手権ロス"の心理的ダメージをチャレンジャーマインドへと置換させた。
 
 松本は「トップ下だと(左右の)どちらにでも行けるので」と新たに振られた役目を充実した表情でこなし、日大藤沢戦では針谷のスルーパスから2得点。加入先の広島(先の豪州合宿にも帯同)でもシャドーで起用されており、その意味でも、トップ下で確かな手ごたえを得たのには大きな意味があった。
 
 

次ページスタイルががらりと変わった千葉の名門

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事