【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』其の百零二「鹿島の勇敢さとマドリーの驕り――メンタルが生んだ互角の戦い」

2016年12月21日 小宮良之

押された時間帯もあったが、気持ちで負けることはなかった。

技術、戦術でも高いものがあることを証明した鹿島だが、それを引き出したのは内なる力だった。 写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

 クラブワールドカップ決勝、鹿島アントラーズはなぜ、欧州王者レアル・マドリーと伍することができたのか?
 
 勇敢さ――。
 
 様々な要因はあるにせよ、鹿島の選手が臆さなかったこと。これが一番大きいだろう。エモーショナルな展開は、全て勇敢さに端を発していた。
 
「フットボールはメンタル」
 
 多くの人は言う。心理状態は駆け引きを優位にするし、プレーの精度を高め、数センチ長く、足が出る。そして、クロスバーに当たったボールはインする。運を味方にすると言うのか。心の持ちようは、勝負を決める。勝者となるための引力になるのだ。
 
 鹿島はマドリーを相手にしながら、最終ラインをずるずると下げていない。できるだけ高い位置でラインをキープする一方、2トップはボールの出どころを塞ぐことに躍起になった。
 
 プレッシングで相手を面食らわせて精度を狂わせ、ボールを奪い返した後は、ポゼッションでも互角に渡り合っている。その負けん気は、スローインひとつとっても顕著。安易に後ろへ下げず、前に投じ、相手ゴールに近付こうと試みた。
 
 勝利の戦略プランとして、右サイドを狙ったのも奏功した。左SBのマルセロは攻め上がったまま残ることが多く、サイドに出た時のセルヒオ・ラモスの守備は雑になりやすい。その傾向を、鹿島は完全に見抜いていた。
 
 右サイドでボールを引っ張る金崎夢生の動きは迫力満点で、ここに遠藤康、西大伍ら複数の選手が絡む。攻撃を防御に使い、相手を攻撃に転じさせなかった。
 
 もちろん、押された時間帯もある。しかし、気持ちで気圧されることはなかった。
 
 この夜は、GK曽ケ端準が水際で、何度もチームを窮地から救っている。もっとも、彼のセービングは素晴らしかったが、それ以上に守備陣が集中してコースを消していたとも言える。シュートが打てるコースは限られていたのだ。
 
 そして石井正忠監督の交代策も、ピッチ上の選手を勇気付けるものだった。決して、守りに入るような手を打たず、積極策で相手に息つく暇を与えなかったのだ。
 
 鹿島はメンタル的優位を、勝負強さに転化させていた。

次ページ称賛に囚われず、挑みかかる姿勢を今後も持ち続けるのが大事。

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