【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』其の九十八「当代最高の監督はペップで決まりだが、今年に限って見ると…!?」

2016年11月24日 小宮良之

戦い方は革命的で発展的。そして選手の才能を変革させたペップ。

緻密な理論と的確なアプローチで究極の理想すら実現してしまったペップ。その功績は、歴史上のどの指揮官が成し遂げたものと比べても大きい。 (C) Getty Images

  当代最高の名将は誰か?
 
 2016年の「FIFA年間最優秀監督」に、10人がノミネートされた。同賞の発表は、来年1月9日に予定されている。
 
 昨シーズン途中の就任でチャンピオンズ・リーグ(CL)を勝ち取ったレアル・マドリーのジネディーヌ・ジダン、おとぎ話のような進撃でプレミアリーグ優勝を果たしたレスターのクラウディオ・ラニエリ、EURO2014でベスト4に躍進した"小国"ウェールズ代表のクリス・コールマンらの名が挙がっている。
 
 名将の定義は、決まったものではないだろう。タイトルという栄光、華やかなプレーの体現、ゲームマネジメントの老獪さ、カリスマとしての存在感――。どれも、名将の条件のひとつではある。
 
 とはいえ、当代最高の指揮官は、ジョゼップ"ペップ"グアルディオラ以外に考えられない。
 
 グアルディオラは千里眼のような目を持ち、選手の実力や特性を読み取り、才能を引き出し、それを集団の強さとする。集団のなかには、輝く個人がいる。そのまばゆさにこそ、グアルディオラの真骨頂がある。
 
 バルセロナでは、革命的なスペクタクルを完成させ、同時にあらゆるタイトルを手にした。その後も、バイエルン、マンチェスター・シティで「フットボール」を表現している。
 
 バイエルン時代は、CLでいつもベスト4止まりだったことが批判を受けた。しかし昨シーズン、欧州のベストゲームはバイエルン対アトレティコ・マドリーの準決勝・第2レグ(バイエルンが2-1で勝利)だったといわれている。
 
「フットボールを見せる」という点で、グアルディオラは他の追随を許さない。
 
 何より、リオネル・メッシを化け物に変身させ、セルジ・ブスケッツを一流に仕立て、フィリップ・ラームを覚醒させ、ヨシュア・キミッヒを抜擢し、選手の才能を変革させてきた。「選手を成長・進化させる」という功績も、瞠目に値するだろう。
 
 ジョゼ・モウリーニョは勝者の称号が相応しい指導者だが、その後にカタルシスを与えた選手はほぼいない。
 
 グアルディオラの戦い方は、革命的で発展的である。「相手を徹底的に研究し、良さを出させず、後の先を取って勝つ」というリアクションとは逆。自分たちがボールを持って相手を引き回す、アクションフットボールだ。
 
 アクションはリアクションよりも、仕込みに骨が折れる。相当なボールプレーの質が求められ、実現が難しい。グアルディオラは丹精込め、そのスペクタクルを作り上げる。

次ページ器がでかく、誰でも懐に入れてしまう、エゴのないサントス監督。

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