タイに渡った「昇格請負人」――永里源気が明かす異国での生活と昇格争い、家族・兄妹のこと

2016年11月03日 佐々木裕介

「兄として素直に妹の活躍は嬉しい」

現在、タイのポートFCでプレーする永里。今季はディヴィジョン1からプレミアリーグへの昇格に貢献した。

「昇格請負人」と呼ばれる人たちがいる。Jリーグで言えば、石﨑信弘(現モンテディオ山形監督)、反町康治(現松本山雅FC監督)、小林伸二(現清水エスパルス監督)といった監督たち。彼らはいずれも複数のクラブでJ1昇格を実現してきた名指揮官だ。
 
 今シーズンも残りわずかとなり、今また「昇格請負人」たちが存在感を発揮する季節となってきたが、監督だけでなく同じくピッチ上で多くの昇格に貢献する選手もいる。2014年からタイでプレーする永里源気もその冠ホルダーのひとりと言っていいだろう。
 
 Jクラブ在籍時には、移籍する先々でJ1昇格に絡んだ男である。彼自身、そう言われることを「小っ恥ずかしい」と嫌がるのだが……。そして今シーズン、所属するポートFC(バンコクを本拠地とし、タイ国内で存在感を際立たせる古豪。以下、ポート)の来季1部昇格が決定。彼は異国のリーグでまたひとつ、その勲章を積み上げたのである。
 
 タイでの3年目のシーズンを終えたばかりの彼に、タイでのエピソードを中心に、自らが感じるままの話しを聞かせてもらった。
(文・写真:佐々木裕介)
 
――◆――◆――
 
――家族は奥様と3人のお子様と存じていますが、タイでも一緒に生活されているのでしょうか?
 
 いいえ、家族は日本に残してきています。こっちではずっと単身赴任です。
 
――なるほど。単身生活では、なにかとご苦労も多いのかと。
 
 こっちで一緒に暮らしたい気持ちはあったのですが、慣れない土地で一緒に暮らすことのリスクを家族皆んなで感じての決断です。ぶっちゃけ寂しいですよ! でもいつも連絡は取り合っていますし、離れていても一緒に頑張っている感じです。
 
――22歳で結婚、30歳で3児の父、そして今までにも度々家族を大切にする発言等から"家族愛"を感じてなりません!
 
 でも正直な話、結婚してから変わったんですよ。独身だった湘南時代は若かったなぁと。今になって考えてみたら、プロとしてまったくなっていなかったと思います。だから必要とされずに戦力外になったんだと。その湘南時代に出会って、今も支えてくれている妻には感謝していますし、家族のためにも一日一日を大切に、また真剣に生きることが私に与えられた使命だと思って、精進する毎日ですよ。
 
――永里選手と言えば、サッカー兄妹というのは有名な話です。でも"永里優季(ドイツ・ブンデスリーガのフランクフルトに所属する「なでしこジャパン」のエース)の兄"って言われ過ぎているのでは? イラっとすることはないですか??
 
 確かに今までに何度も同じ質問をされ、またそう言われていますが、それが嫌な気持ちになったことはまったくないんですよね。兄として素直に妹の活躍は嬉しいですし。
 
――3歳違い、皆がサッカー選手という絵に描いたようなご兄妹です。仲はどうなのでしょう?
 
 基本的に兄妹3人仲が良いですよ。今はなかなか皆で揃うことが難しいんですが、昨年末に久しぶりに兄妹揃ったんで、家族全員で東京ディズニーランドへ行きました。楽しかったなぁ~。
 
――兄妹揃うとサッカーの話はするのでしょうか?
 
 します、します。みんなサッカー大好きなんで。
 
――兄妹揃って海外でプレーした経験を持たれていますが、幼少期からのご両親の教育の中で海外を意識させるような"教え"があったのでしょうか?
 
 いやいや、それはなかったと思います。結果、皆サッカーをやっていますが、強制はまったくなかったですし。ただ父は滅茶苦茶厳しい人でした(苦笑)。
 
 私が小学校卒業を控えた時期に「サッカーでプロになりたい」と両親に相談して、厚木の実家からヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)のジュニアユースへ通わせてもらった経緯があるのですが、少しでも気を抜いた態度を見せようものなら「本気でプロになりたいの? そんなんでなれると思っているのか?」と父に口酸っぱく言われていました。
 
 それは兄妹揃って言われていて、『いま何をやらないといけないか、考えてやりなさい』と言われ続けていたことで、自ら考える力が養われ、また向上心を持てて、海外でプレーしたいと思えたのではないかなとは思います。
 
――兄妹揃ってサッカー選手に育て上げた、これはご両親の自慢でしょうね。
 
 どうなんでしょうね。両親は若い頃にバスケットボールをやっていたのですが、当時は日本にバスケットボールのプロがなくて。でもスポーツ選手にはなってほしかったみたいですよ。家にはバスケットボールから始まってサッカー、野球、テニス、ゴルフとひと通りのスポーツ道具がありましたからね(笑) そこから自分がサッカーを選んで始めたら、一番下の妹(永里亜紗乃さん/海外でのプレー経験を持つ元日本代表)が真似して始めて、真ん中(優季さん)が続いた感じです。

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