【U-19優勝の舞台裏】やっと素直に自分と向き合えた決勝戦。遠藤渓太はなぜ「雑念」を振り払い、流れを変えられたのか

2016年11月02日 安藤隆人

「『結果を残したい』という気持ちばかりが強くなってしまって…」

後半途中からの出場で反撃の突破口となった遠藤。準決勝までのモヤモヤを払拭する働きを見せた。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

 最後の最後で、彼の燻っていた思いが解き放たれた。
 
「前日練習から調子が良くて、やっぱり出られない悔しさをラストだったのでぶつけました」
 
 U-19アジア選手権決勝・サウジアラビア戦でMF遠藤渓太に出番が訪れたのは、59分のことだった。MF三好康児が相手の悪質なタックルにより負傷し、交代投入となった。
 
「ピッチの選手たちはかなりハイペースの戦いをしていたので、僕もそれに合わせるようにアップのペースを早めていたんです。康児くんが負傷をして、僕が入ったのですが、みんなから『ヒーローになってこい』と言われて送り出されました」
 
 準備は万端だった。解き放たれたかのようにピッチに送り込まれた遠藤は、投入直後から得意のドリブルで、サウジアラビアの白い壁に向かって挑んで行った。67分には左サイドでFW岩崎悠人のパスを受けると、切れ味鋭いカットインから強烈なミドルを放つ。ゴールこそならなかったが、遠藤のこのプレーが劣勢だったチームに反撃の糸口をもたらした。
 
 このプレーを境に、日本は攻めに転じる構えを見せる。遠藤も83分に左サイドを突破し、ファーサイドの岩崎へクロス。延長前半の97分にはカウンターから左サイドをドリブルで駆け上がり、クロスを供給するなど、チャンスを演出。103分には岩崎の折り返しをボレーがミートしないなどミスもあったが、これまでの出場の中で一番の出来を見せた。
 
「これまではどうしても『結果を残したい』という気持ちばかりが強くなってしまって、普通にクロスを上げればいい場面でえぐってしまって、相手に奪われたり、引っかかってしまって空回りをしていたんです。でも、決勝は緊迫した0−0の局面だったし、僕に何を求められているかを考えながらプレーしました」
 
 遠藤は初戦のイエメン戦で84分に、カタール戦では62分に交代出場するが、その時はすでに勝負が決まっている局面だった。準決勝のベトナム戦は先発だったが、ターンオーバーによるもので、かつベトナムが歯ごたえのない相手だったこともあり、自分のことを考えてしまうことが多かった。
 
 自分はこのチームではレギュラーではなく、FW小川航基、岩崎、MF三好、堂安律が結果を残している。彼の中で生まれた『雑念』が焦りを生み出し、ベトナム戦もFW岸本武流、中村駿太が結果を残すなか、空回りが続いてしまった。
 
 雑念に心を乱され、良いところがないまま、決勝を迎えることになってしまった――。
 
「ゴールが取れないし、アシストが出来なくて、試合の出番も少ない。本当に不甲斐なかった。でも、冷静に考えたら、かなり空回りしている自分に気が付きました。もう決勝しかないし、チャンスは絶対に来ると思うので、自分がもしピッチに立ったら、ベンチメンバーの思いや、みんなのために、チームのためにやらないといけないと気付きました」
 
 もう1試合しかないという状況が、いい意味で開き直らせ、自分を見つめ直す機会を生み出すことができた。このきっかけの裏には、もうひとつ彼のある想いが隠されていた。

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