【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の七十一「勝利への近道、それは局面を制すること」

2016年05月19日 小宮良之

本場・欧州で「逆足」のサイドアタッカーが増加した理由は?

かつてはテクニカルな背番号10が、背後を心配する必要がないサイドに陣取って攻撃を創ったが、現在ではサイドアタッカーがゴールを生み出すための拠点となった。 (C) Getty Images

 試合全体を有利に動かす。
 
 それは、容易なことではない。もし相手より劣る戦力の場合、それはとことん難解な作業になるだろう。
 
 しかし、必ず方策はある。
 
 サイドを制することで試合を御する――は、そのひとつだろう。実際、この戦術策は、世界中で多くの監督が用いている。具体的に言えば、有力なアタッカーを左右どちらかのサイドに置き、「隠れ9番」として用いるのだ。
 
 彼らはしばしば、CF以上の得点力を見せる。そうした選手は、原則的に言って、ゴールに近いところに置いてこそ、得点の可能性が増すはずだ。しかし、敢えてそれをせず、サイドに置き、ここでの攻防で優位に立つことにより、試合を制するのである。
 
 近年、欧州で「逆足」といわれるサイドアタッカーが増えたのは、ひとつに「サイドを制する」という発想がある。ワイドに得点力のあるアタッカーを置き、サイドと逆の利き足でプレーすることで、中に切り返してゴールを狙う。その脅威を与えることで、試合を有利に運べる。
 
 リオネル・メッシ、クリスチアーノ・ロナウド、ネイマール、アリエン・ロッベン、フランク・リベリなどは、いずれも逆足の選手である。
 
 サイドに活路を見出し、局面を制する(すなわち戦術的勝利)ことが、試合の勝利に繋がる。
 
 5月8日に行なわれたJ1リーグ第11節、日産スタジアムでは横浜F・マリノスがヴァンフォーレ甲府を対戦した。戦力的に見た場合、マリノスの方が上。しかも、彼らのホームゲームであり、どちらが有利かは歴然だった。
 
 これに対して甲府は、5-4-1という守備的布陣で挑み、バリケードのなかにこもり、相手を疲弊させるという戦いを選択した。左サイドには得点源のクリスチアーノを置き、一発に懸けた。
 
 しかし、攻撃は空回りする。なぜなら、クリスチアーノはマリノスの右SB、小林祐三に巧妙に封じ込まれ、苛つくばかり。それどころか甲府は、守備に緩慢なクリスチアーノの裏を突かれ、1-2とリードされて前半を折り返す羽目となった。
 
 一方、マリノスは前半の終盤、それまで左サイドにいた齋藤学が右サイドに位置を変え、流れを掴んでいた。
 
 齋藤は小林との連係により、甲府の脆弱な左サイドを突き破った。5バックは堅牢に映るものの、実は前のスペースは空きやすい。2点目を奪った齋藤は、最終ラインの前の"門前"を攻め立てる技量を持っており、相手の守備のズレを引き起こしていたのである。
 
 マリノスは右サイドを中心に、試合の主導権を握った。

次ページ攻め切ることで、相手の守備だけでなく、攻撃も弱らせられる。

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