【現地コラム】カルチョでは異例、降格決定後も鳴りやまない拍手――。フロジノーネが胸を張ってセリエAを去る

2016年05月12日 片野道郎

カルチョの日常とはまったく異なる光景が……。

限られた戦力で健闘したフロジノーネ。5節には敵地でユベントスと引き分けるなど、小さくないインパクトを残した。(C)Getty Images

 5月8日に行なわれたセリエA37節、本拠地コムナーレにサッスオーロを迎えたフロジノーネは0-1で敗れ、ヴェローナに続いてセリエB降格が確定した。
 
 結果至上主義の剣呑な空気に支配されたセリエAにおいて、敗戦、そしてセリエBへの降格はしばしば、絶望や怒りとともに受け止められる。シーズンが終盤に入り降格の可能性が現実として迫ってくるにつれて、ゴール裏のウルトラスがネガティブな感情を爆発させ、チームを支持するどころか罵倒する側に回ったり、暴力的な抗議行動に出たりするケースも、残念ながらここイタリアでは珍しくない。
 
 しかしこの日、ホームでの最終戦を迎えたフロジノーネでは、そうしたカルチョの日常とはまったく異なる風景が見られた。
 
 36節終了時点で残留への望みがほぼ潰えていたにもかかわらず、ゴール裏はチームカラーの黄色とブルーに染まり、試合前には1年前にチームとサポーターがセリエA昇格をともに祝った場面を描いたビッグフラッグが広げられたのだ。
 
 試合中も低迷するチームの試合で見られがちな、チームや監督、クラブに対する攻撃的なコールやチャントは皆無。ウルトラスは90分を通して熱いサポートを送り続けた。
 
 試合は拮抗した展開のまま0-0で進んだが、残り5分を迎えたところでサッスオーロのマッテオ・ポリターノがこぼれ球を押し込んで決勝ゴール。何度か決定機を作りながらものにできなかったフロジノーネはシーズン22敗目を喫し、セリエA残留の可能性はついにゼロになった。
 
 クラブ史上初めてセリエA昇格を果たしながら、たった1年でセリエBに逆戻りすることになったにもかかわらず、試合が終わってもなお、スタジアムに悲劇的な雰囲気はかけらもなく、支配していたのはむしろ祝祭の空気だった。
 
 チーム、監督、スタッフ全員が並んで挨拶に向かうと、ゴール裏は満場の拍手でそれを迎える。そこに張り出された横断幕にはこう書かれていた。
 
「会長ありがとう。一緒にもう一度挑戦しよう」

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