【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の六十二「重視すべきは数でなくポジション」

2016年03月17日 小宮良之

たとえ数で勝っていても、良いポジションを取れなければ…。

何人で取り囲んでも止められないメッシのようなケースは稀。大概は守備側に問題がある。 (C) Getty Images

「数的優位」
 
 それは、まるで教科書にでも載っているような言葉として使われている。
 
 Jリーグでは指導者や記者たちが、その言葉を当然のように唱える。それは、正当性を振りかざす上での、魔法の呪文のようにも聞こえる。
 
「数的優位が崩れたから失点したんだ」
「数的優位を作れないと、得点は難しいね」
 
  こう、したり顔で解説するのだ。
 
 しかし、それは本質を突いていない。ピッチにおいて優位に立つために必要なのは、数ではないのだ。
 
 数的優位に立っていても、失点することがある。その理由は、まず相手チームに圧倒的なレベルの高さを誇る選手がいるということがあるだろう。リオネル・メッシやクリスチアーノ・ロナウドには、数の論理は最初から通用しない。
 
 しかし、これらは例外的である。多くの場合、数で勝っていても、良いポジションを取ることができていないために失点するのだ。
 
 例えば、並んだ2人のCBの間に入ってきたストライカーに対し、どちらもマークに行けないというケース。先週末、リーガ・エスパニョーラでエイバルがラージョ・バジェカーノに追いついたシーンがこれであり、CBが被り、エリアに入ってきた選手を自由にしたことに端を発している。
 
 問題とすべきは、数ではない。時間と空間のなかにあるタイミングを計れなければ、言い換えるなら、ポジションを誤っていたら、"優位"は作れないのである。
 
「ポジション的優位」
 
 それこそが、現代フットボールでは問われる。
 
 ポジション的優位の前では、数的優位などほとんど問題にならない。ポジション修正のディテールこそが、勝利のメソッドになる。
 
 例えば、スローインに対する守備で、目の前の相手と並び立つような選手は戦術的なセンスに欠ける。たった一歩で背後を取られるし、反応もできない。しかし、わずか一歩でも、ボールを受けようとする相手選手の背後に立つことで、次の動きは予期できる。
 
 選手の能力の低さを嘆く前に、監督はそれらを1つひとつ修正する必要があるのだ。

 ポジショニングによるアンティシペーション(予測)は、次のプレーにおいてその選手を優位に立たせる。

次ページ簡単には作れないが、不動の強さを得るのに不可欠なもの――。

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