【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』其の五十九「相乗効果が生む“黄金世代”。とりわけメッシや小野など傑物が周囲の才能を刺激する」

2016年02月26日 小宮良之

器は選手自身で、そこに水を満たすのは、指導者よりもチームメイト。

(左から)メッシ、セスク、ピケという傑出した才能が揃ったバルサのカデテ(15~16歳のチーム)は、「黄金の87年世代」として名を馳せた。(C)REUTERS/AFLO

 優れたプレーヤーが出てくると、その経歴を辿り、一つの育成モデルにしようとするケースが少なくない。
 
 しかし当然だが、同じことをしても、同じような選手を育てられるわけでもない。個人の性格や才能も、あるいは環境も、よしんば似ていたとしても、決して同じではない。
 
 もっとも、成功を掴んだ選手にはいくつかの共通点があるのも事実だ。指導者が前例を参考にするのは致し方のないところだろう。
 
 しかし、「どういう法則で良い選手は育まれるのか?」となると、優れた育成指導者は口を揃えてこう言う。
 
「結局のところ、指導者にできることは少ない。選手は選手同士で切磋琢磨するところがある。良い意味での競争関係が不可欠だろう。良い選手というのは、"一つのジェネレーション"という塊で生まれることが少なくないんだ」
 
 器(才能)は選手自身で、そこに水を満たすのは、指導者よりもチームメイトということか。指導者にできるのは、その水を濁さず、淀まさないために器を揺り動かすことくらいなのかもしれない。
 
 現世界王者のFCバルセロナは、マシアと呼ばれる下部組織がクラブの強さの根幹を担っているが、こちらにも"ジェネレーション論理"が当てはまる。
 
 例えば、世界最強の選手であるリオネル・メッシも、一つの世代の塊の中で育まれている。メッシが在籍した当時のカデテ(15~16歳のチーム)には、彼の他にジェラール・ピケ(現バルセロナ)、セスク・ファブレガス(現チェルシー)という今をときめくスター選手が在籍していた。高いレベルの選手が揃ったことにより、技を磨き合ったのである。
 
「87年世代」
 
 メッシを筆頭としたバルサの最強ジェネレーションは、そう呼ばれている。もっとも、この世代はメッシという突出した才能が他の選手の才能を引っ張り上げた、ということも言えるかもしれない。
 
 同じバルサで言えば、今や世界最高のアンカーという呼び声が高いセルヒオ・ブスケッツも、2005-06シーズンのユースチームでボージャン・クルキッチ(現ストーク)、ジオバニ・ドス・サントス(現LAギャラクシー)、ジェフレン(現オイペン=ベルギー2部)らとともに育った。いずれも後にバルサでトップチーム・デビューを飾っている。
 
 また、04-05シーズンのバルサ・インファンティルA(13~14歳のチーム)は、30戦全勝という「パーフェクト・シーズン」を達成したことで知られる。このチームにも、クリスティアン・テージョ(現フィオレンティーナ)、イサーク・クエンカ(現グラナダ)、マルク・バルトラ(現バルセロナ)、マルティン・モントーヤ(現ベティス)など才気溢れる選手が揃っていた。

次ページ優れた選手の存在は、計り知れない相乗効果を生む。

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