「プロ最大の喜びは何か」と訊かれて意外な回答。権田修一が歴史的勝利のドイツ戦やスペイン戦を選ばなかった”納得の理由”

2023年09月03日 白鳥和洋(サッカーダイジェスト)

定位置争いで“邪魔”になった感情とは?

カタール・ワールドカップでは喜びよりも悔しさが勝ったと、権田は率直な感想を述べた。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)/JMPA

 フットボーラー=仕事という観点から、選手の本音を聞き出す企画だ。子どもたちの憧れであるプロフットボーラーは、実は不安定で過酷な職業でもあり、そうした側面から見えてくる現実も伝えたい。今回は【職業:プロフットボーラー】権田修一編のパート3だ(パート5まで続く)。

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 プロ1年目の2007年シーズン、権田修一選手のライバルは「当時日本代表だった土肥(洋一)さんでした」。その偉大な守護神に抱いた感情が、定位置争いで"邪魔"になる。

「プロ1年目は土肥さんに憧れていて、土肥さんみたいになりたいと思っていました。でも、それでは勝てるわけがないんです。土肥さんを真似したら、たとえ追いつけても追い越せない。もちろん、色々と学ばせてもらって、一緒にやれたことは本当に幸せでした。それでもやっぱり、僕は1年目からもっとギラギラしないと行けなかった」

 一理ある。「ギラつき」は、どんな仕事で成功するうえでも重要なファクター。それを理解している権田選手は今、若手選手にこう声をかける。憧れていてはダメだよ、と。

「僕より上手くなるためには僕の想像を超えるプレーをしないとダメ。そういう話を大卒1年目の選手らにします。キーパーは、試合に出ても出なくてもトレーニングで(実力を)向上させていくポジション。出られない時にちゃんと自分にベクトルを向けられればすごく成長できる。

監督が使ってくれないとか、矢印が違う方向に向いていると成長は止まってしまうので、どんな時も努力を重ねる。格好悪くても不細工でもそうやれば成長できる経験を、僕はポルトガルで積んだので。プライドを捨てて純粋に上手くなりたいと思って練習に取り組むのはとても良いこと。そう考えると、(レギュラー1枠のキーパーで勝負しようと思った理由は何かという)質問の答は、大変だと思わないこと、ですかね」
 
 果たして、そんなスタンスでプレーしているGKはどれだけいるだろうか。  

 経験が重要とも言われるポジションで、J1レベルになるとルーキーイヤーからゴールマウスを任されるケースは稀に映る。チャンスをもらえない挙句、レンタル移籍を繰り返していつの間にか引退と、そんな現実さえあるのがプロサッカー選手だ。そんな主旨の内容を伝えると、権田選手は「キーパーは難しいポジションです」とはっきり言った。

「試合に出られる選手がひとりいて、他に出られない選手が2人か3人いる中で毎日練習をしないといけない。そこでいかに試合を想定してトレーニングを積めるか。チームが勝った時は次の試合もどうせキーパーは同じだから(練習を)さらっとやっておくか、負けたらチャンスが来るかもしれないから一生懸命やるか、そんなスタンスでは絶対にレギュラーの座は掴めません。

"どんな時も準備万端"という感覚を若い時から持てるような環境にクラブがしていかないと、若手のキーパーは伸びていかないんじゃないかなと」

 権田選手がプロとして生きてきた中で導き出した、ひとつの結論である。その中身に十分な説得力があったことは言うまでもない。

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