子どもたちが月会費無料でマルチスポーツも選択可能
株式会社weclip/共同代表・代表取締役の横田泰成。「2万7000人全員がコエドスポーツで身体を動かし楽しんでいる」。そんな未来を描く。写真:手嶋真彦
小江戸として知られる埼玉県川越市の社会人サッカーチームから派生した株式会社が、まちづくりに繋がる新たな取り組みを進めている。子どもたちの「協育」が大人たちの「共育」を豊かにし、大人たちの「共育」が子どもたちの「協育」を豊かにするという"コエド"の仕組みとは?
――◆――◆――
伝統的な蔵造りの町並みが、外国人を含めた大勢の観光客で賑わっている。大型連休を控えた4月下旬の日曜日のお昼時。ここ埼玉県川越市に生まれ育った横田泰成が、前方を指さし、教えてくれた。
「あそこに見えるのが"時の鐘"という川越のシンボルです」
1893年の大火事で一度は燃え落ち、翌年に再建された時の鐘は、江戸時代の初期から川越に暮らす人々に欠かせない「時」を告げてきた。
古い町並みが現存し、かつての江戸の趣を感じさせる小都市を「小江戸」と称するが、その代表的な都市川越で、横田は社会人サッカーチームの仲間たちと、新たな「時」の訪れを告げるような取り組みを始めている。
小学生と園児が、毎月無料でスポーツスクールや運動クラスに参加できる、その名も「コエドスポーツ」だ。種目は基礎運動から走り方、キッズかけっこ、サッカー、野球、柔道、体操、ダンス、チアダンス、モダンバレエまでバラエティに富み、それぞれ専門家が指導する。
費用は初期登録料の1000円だけで、更新料はかからず、月会費も無料。コエドスポーツは「co-ed Sports」のカタカナ表記で、co-edはcooperative education、すなわち「協育」を意味しているそうだ。
2022年4月に4人の仲間と共にコエドスポーツを立ち上げた横田は、最初の1年で得られた手応えを糧にしながら、会員数をどう増やしていこうか模索する。新たなこの取り組みを足掛かりにして、彼らはどのような未来を創り出そうとしているのだろうか。
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伝統的な蔵造りの町並みが、外国人を含めた大勢の観光客で賑わっている。大型連休を控えた4月下旬の日曜日のお昼時。ここ埼玉県川越市に生まれ育った横田泰成が、前方を指さし、教えてくれた。
「あそこに見えるのが"時の鐘"という川越のシンボルです」
1893年の大火事で一度は燃え落ち、翌年に再建された時の鐘は、江戸時代の初期から川越に暮らす人々に欠かせない「時」を告げてきた。
古い町並みが現存し、かつての江戸の趣を感じさせる小都市を「小江戸」と称するが、その代表的な都市川越で、横田は社会人サッカーチームの仲間たちと、新たな「時」の訪れを告げるような取り組みを始めている。
小学生と園児が、毎月無料でスポーツスクールや運動クラスに参加できる、その名も「コエドスポーツ」だ。種目は基礎運動から走り方、キッズかけっこ、サッカー、野球、柔道、体操、ダンス、チアダンス、モダンバレエまでバラエティに富み、それぞれ専門家が指導する。
費用は初期登録料の1000円だけで、更新料はかからず、月会費も無料。コエドスポーツは「co-ed Sports」のカタカナ表記で、co-edはcooperative education、すなわち「協育」を意味しているそうだ。
2022年4月に4人の仲間と共にコエドスポーツを立ち上げた横田は、最初の1年で得られた手応えを糧にしながら、会員数をどう増やしていこうか模索する。新たなこの取り組みを足掛かりにして、彼らはどのような未来を創り出そうとしているのだろうか。
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コエドスポーツを運営する「株式会社weclip(ウィクリップ)」は、川高(かわたか)蹴球会という社会人サッカーチームから派生し、2021年3月に設立された。コアメンバーは横田を含めた5人で、いずれも別に本業を持つ。
副業というかたちでこの株式会社を立ち上げたのは、5人が在籍している川高蹴球会が、大袈裟に言えば"存亡の危機"を迎えたことと無関係ではない。
2000年創立の川高蹴球会は当初の川越市2部リーグから、市1部、埼玉県3部、県2部と昇格し、2015年までの10年間は県2部で戦った。ところが16年は県3部に降格し、18年には市1部に落ちてしまう。
戦績を落とし、先発メンバー11人を揃えるのも一苦労という曲がり角を迎えたのは、たまたまではない。横田などチームの創立メンバーや初期から在籍してきた仲間たちが、いずれも30代前半から半ばという年齢となり、結婚して、父親となり、家庭や仕事と社会人サッカーを両立できなくなるメンバーが増えたのだ。
「どうすれば、このチームで、サッカーを続けていけるのか――」
後にウィクリップを設立する横田たちのその議論はコロナ禍で加速し、膨らみ、やがて子育ての問題へと突き当たる。
「核家族が増えて、一人っ子も多く、親が共働きという子どもたちも少なくありません。地域との繋がりも減っています」
そう語る横田と4人の仲間たちはいずれも子を持つ親として、あるいは教職者として(1人は小学校教諭)、そうした現実から目を背けるわけにはいかなかった。
「昔は下校時に寄り道をして、近所のおじいさんおばあさんにお菓子をもらったり、おじさんおばさんに叱られたり、幼馴染のお兄ちゃんお姉ちゃんと遊んだり、自然にいろんな世代の人たちと触れ合う機会がありました。比較すると自分の子どもたちは、そうした異年齢との接点が極端に減っているように思います」
今年21歳の長男から6歳の三女まで4人の父親でもある横田の、それが実感だ。スポーツ庁の調査によると子どもたちの基礎運動能力は低下しており、別の調査によると高齢化に伴う運動器官の働きの低下を意味するロコモティブシンドロームも子どもたちの間で増えているという。
ユニセフが2020年に発表した報告書によると、「15歳を対象とする生活満足度」と「15~19歳の自殺率」を比較した「精神的幸福度」で、日本は調査対象38か国中下から2番目の37位だった。
「一人で過ごす時間が長かったり、すぐに頼れる人がいなかったり、将来なりたい職業を持てなかったり、そういう子どもたちが増えているようです」
コエドスポーツは、学校が終わった平日の夕方にもスクールやクラスを開いている。異なるスポーツや運動を気軽に体験できるので、基礎運動能力や身体操作性を幅広く伸ばせる、いわゆるマルチスポーツも選択できる。
月会費無料という仕組みを支えているのは、横田たちウィクリップの呼び掛けに応じた、川越市内や周辺でそれぞれスポーツスクールや運動クラスを運営している提携クラブの指導者たちだ。
スポーツや運動に親しむ子どもの母数が増えれば、無料のコエドスポーツから有料のスクールやクラスへ進み、特定のスポーツや運動を本格的に続ける子どもたちも増えていく。その受け皿となるウィクリップの提携クラブには、集客という悩みを低減できるメリットがある。そんな見立てである。
コエドスポーツの会員数は現状200名弱とまだまだ伸びしろが大きく、横田には確かな手応えもある。提携クラブへの呼び掛けや協賛企業への飛び込み営業を通して、コエドスポーツという仕組みや理念への強い共感が得られたからだ。当初の運営資金もスムーズに集まった。
人口約35万人の川越市には、概算で2万7000人の小学生と園児が暮らす。穏やかな表情で、横田が抱負を語る。
「目指しているのは、その2万7000人全員がコエドスポーツで身体を動かし楽しんでいる、そんな未来です」
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副業というかたちでこの株式会社を立ち上げたのは、5人が在籍している川高蹴球会が、大袈裟に言えば"存亡の危機"を迎えたことと無関係ではない。
2000年創立の川高蹴球会は当初の川越市2部リーグから、市1部、埼玉県3部、県2部と昇格し、2015年までの10年間は県2部で戦った。ところが16年は県3部に降格し、18年には市1部に落ちてしまう。
戦績を落とし、先発メンバー11人を揃えるのも一苦労という曲がり角を迎えたのは、たまたまではない。横田などチームの創立メンバーや初期から在籍してきた仲間たちが、いずれも30代前半から半ばという年齢となり、結婚して、父親となり、家庭や仕事と社会人サッカーを両立できなくなるメンバーが増えたのだ。
「どうすれば、このチームで、サッカーを続けていけるのか――」
後にウィクリップを設立する横田たちのその議論はコロナ禍で加速し、膨らみ、やがて子育ての問題へと突き当たる。
「核家族が増えて、一人っ子も多く、親が共働きという子どもたちも少なくありません。地域との繋がりも減っています」
そう語る横田と4人の仲間たちはいずれも子を持つ親として、あるいは教職者として(1人は小学校教諭)、そうした現実から目を背けるわけにはいかなかった。
「昔は下校時に寄り道をして、近所のおじいさんおばあさんにお菓子をもらったり、おじさんおばさんに叱られたり、幼馴染のお兄ちゃんお姉ちゃんと遊んだり、自然にいろんな世代の人たちと触れ合う機会がありました。比較すると自分の子どもたちは、そうした異年齢との接点が極端に減っているように思います」
今年21歳の長男から6歳の三女まで4人の父親でもある横田の、それが実感だ。スポーツ庁の調査によると子どもたちの基礎運動能力は低下しており、別の調査によると高齢化に伴う運動器官の働きの低下を意味するロコモティブシンドロームも子どもたちの間で増えているという。
ユニセフが2020年に発表した報告書によると、「15歳を対象とする生活満足度」と「15~19歳の自殺率」を比較した「精神的幸福度」で、日本は調査対象38か国中下から2番目の37位だった。
「一人で過ごす時間が長かったり、すぐに頼れる人がいなかったり、将来なりたい職業を持てなかったり、そういう子どもたちが増えているようです」
コエドスポーツは、学校が終わった平日の夕方にもスクールやクラスを開いている。異なるスポーツや運動を気軽に体験できるので、基礎運動能力や身体操作性を幅広く伸ばせる、いわゆるマルチスポーツも選択できる。
月会費無料という仕組みを支えているのは、横田たちウィクリップの呼び掛けに応じた、川越市内や周辺でそれぞれスポーツスクールや運動クラスを運営している提携クラブの指導者たちだ。
スポーツや運動に親しむ子どもの母数が増えれば、無料のコエドスポーツから有料のスクールやクラスへ進み、特定のスポーツや運動を本格的に続ける子どもたちも増えていく。その受け皿となるウィクリップの提携クラブには、集客という悩みを低減できるメリットがある。そんな見立てである。
コエドスポーツの会員数は現状200名弱とまだまだ伸びしろが大きく、横田には確かな手応えもある。提携クラブへの呼び掛けや協賛企業への飛び込み営業を通して、コエドスポーツという仕組みや理念への強い共感が得られたからだ。当初の運営資金もスムーズに集まった。
人口約35万人の川越市には、概算で2万7000人の小学生と園児が暮らす。穏やかな表情で、横田が抱負を語る。
「目指しているのは、その2万7000人全員がコエドスポーツで身体を動かし楽しんでいる、そんな未来です」
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