【功罪検証】森保一と日本サッカーの未来。重要なのは、何を武器に、どう戦っていくのかを明示する哲学だ

2022年12月09日 加部 究

プレーヤーズ・ファーストの姿勢をぶれずに貫く

カタールW杯で日本を2大会連続の決勝T進出に導いた森保監督。結果を出せる最適任者だったのは疑いない。(C)Getty Images

 おそらく世界中を探しても、カタール・ワールドカップ(W杯)で日本代表にこれ以上の成績をもたらす監督はいなかったはずだ。

 クロアチア戦に限れば勝利に導ける監督はいたかもしれないが、その前にドイツやスペインを下してグループの首位通過に導ける人材はいない。現時点ではツキも含めて森保一監督が、結果を出せる最適任者だったのは疑いない。

 もし第三者として客観的立場で大会を俯瞰し、戦力の可能性を最大限に引き出した指揮官を探るなら、森保監督は最優秀候補のひとりだった。

 森保監督は、1度見込んだ選手をとことん信頼し、粘り強く長所を引き出そうとする。選手個々を最大限に尊重し、チーム作りへの意見を積極的に吸い上げて来た。プレーヤーズ・ファーストの姿勢をぶれずに貫いて来たから選手たちは心地良くプレーに集中できて、それが独特の結束感をもたらした。

 吉田麻也が「今まで一緒に仕事をしてきた監督の中で最も尊敬できる」と語ったように、人物としては申し分なく、育成型の指導者としては理想像と言ってもいい。

 だが日本は依然として世界を追いかける立場にあり、常に現在地を確認しながら天井を引き上げていく必要がある。

 確かにW杯は国民の関心度もケタ違いなので、敗退によるダメージは計り知れず未来の選手人口にも影響しかねない。しかしJFA(日本サッカー協会)が掲げる「2050年までに世界一」の壮大な目標に嘘がないなら、結果以上に大切なものがあるのかもしれない。
 
 森保監督は、JFAに託された仕事を見事に全うした。ラウンド16で3度跳ね返された歴史があるので「ベスト8以上」を公言して来たが、当該試合に到達するまでの難易度は過去6度出場して来た大会との比ではなかった。

 またシーズン中に開催される異例の大会では、コンディションの読めない選手が多く頭痛の種になったことは想像に難くない。メンバー26人中22人が欧州クラブへの在籍歴を持ち、戦力のバランスや経験値は過去最高だったが、逆に選手たちが顔を揃える時間は極端に短縮され、トレーニングマッチの選択肢も一気に狭まった。

 こうした逆境下で、森保監督は本大会に入ると、まるで生まれ変わったかのように別の顔を見せた。対戦国との力関係を冷静に読み取り、90分間で劇変のシナリオを描いた。

 4年間でこびり付いた慎重居士のイメージを振り払い、5人交代枠をフル活用しながら未検証の戦い方も躊躇なく選択し、それまで1度もなかった逆転劇をドイツ、スペインを相手に完結させた。

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