連載|熊崎敬【蹴球日本を考える】サッカーの奥深さを伝える松本の「汚いボール」

2015年09月14日 熊崎敬

「湘南対松本」というカードは、特別な対戦に育ちつつある。

白熱の攻防を見せた湘南対松本の一戦。サッカーファンの期待に違わぬカードになりつつある。写真:徳原隆元

 よく目が離せないゲームというが、1-1に終わった湘南と松本のJ1第2ラウンドはまさにそれだった。圧倒的な走力とリスクを恐れない果敢な攻撃。局面でのせめぎ合いも激しく、90分があっという間に過ぎていった。
 
 主導権を握って試合を進めていたのは松本だった。
 前半からダイナミックにボールを動かし、岩上のFK、CK、ロングスローからチャンスを創る。オープンな攻め合いのなかでも、厳しいマークと素早い帰陣で湘南の出足を抑え込んだ。
 
 16分にCKから先制すると、松本は巧みにペースを落とす。5バックで自陣を固め、今度は後方で横パスをつなぎながら時計の針を進めていく。
 
 だが、湘南の巻き返しも見応えがあった。
 スペースが限られたなかでもクロス、ミドルシュート、ドリブル突破、ワンツーなどあらゆる手を繰り出し、最後にCKから難攻不落と思われた松本の本丸を攻め落とした。GK秋元も攻め上がり、ネットに雪崩れ込んでいった空中戦は、鳥肌が立つような迫力があった。
 
 それは湘南と松本が創り上げた、濃密な90分だった。
 20年を超えるJリーグの歴史のなかで、「湘南対松本」というカードはまだ若い部類に入る。だが、両チームの選手やスタッフ、サポーターが全身全霊を込めて戦うことで、特別な対戦に育ちつつある。
 
 私はこんなことを願いながら、BMWスタジアムを後にした。
 来年も、J1の舞台で湘南対松本が観られますように……。

次ページロープ際に押し込まれながらもしたたかに勝機を探った松本。

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