「何も答えが浮かばなかった」。西野朗・前日本代表監督がロシアW杯で味わった“キツかった経験”

2022年07月12日 増島みどり(スポーツライター)

今も忘れられない、ベルギー戦敗戦直後のインタビュー

ロシア・ワールドカップ、森保ジャパンについて丁寧な言葉で語ってくれた西野氏。写真:サッカーダイジェスト

 久しぶりの取材日、西野朗・前日本代表監督は日焼けし、「年齢は関係ないだろう!」と、怒られるに違いないが、67歳とは思えぬ絞った身体を、ジャストサイズのスーツで包んで現場にやってきた。毎日10キロから15キロのランニングを、「外での運動は控えるように」と、これだけ熱中症への注意喚起がされている時期に、昼間、欠かさないという。  

 「だから、こんなに焼けちゃったよ」と、楽しそうに笑う。それは焼けますよ、そんなに鍛えて、追い込んで、どうするのでしょう?と聞くと、サッカー以外で掲げる今の目標が「70歳までに、何とかフルマラソン完走」。難しくはなさそうだ。    

 18年ロシアW杯でベスト8をかけた「ロストフでの死闘」(7月3日)の末、ベルギーに敗退。今回の取材日は、西野と、当時コーチだった森保一・現日本代表監督(53歳)、代表選手たちがロシアから帰国してから4年となる日でもあった(7月5日到着)。    

 ベスト8に手をかけながら、ベルギーの強烈な超高速カウンターで2-3と打ちのめされた直後、西野はテレビのフラッシュインタビューで「日本代表がベスト8に入るために何が足りなかったと思いますか?」と質問を受けた。Jリーグ監督として最多勝利となる270勝をあげ、同時にリスクや試練を味わってきたはずの「百戦錬磨」の名将が、呆然とした表情を隠さず、しばらく言葉を失っていた様子が印象に残っている。そして「何が足りないんでしょうね……」と、ようやく言葉を振り絞った。    

 「何も答えが浮かばなかったよ。それまでの試合だったら、Jリーグでも国際試合でも、もうちょっと態勢を整えて、何を話せばいいか、どんなやられ方をした試合だって何とか考えられるものでしょう。それがあの敗戦の瞬間から、頭が止まっちゃった。あんなにキツかった経験、インタビューって、今でも忘れられない」と、取材の冒頭、厳しい表情を浮かべた。  

 「何が足りないのか」──ロストフのピッチに残してきた答を探すリレーのバトンは、森保と、ピッチで涙にかすんだ空を見上げた選手たちにつないだ。西野はバトンを渡した後も減速せず、タイ代表を率いる(21年秋帰国)チャレンジへと走り出した。  
 

  改めて、11月21日に始まるW杯カタール大会に向けた日本代表の現在地、託したバトン、4年間の率直な思いを聞いた。

「カタールW杯の難しさは、これまでのような合宿期間が取れず、集合してすぐに大会が始まるところにあると思う。だから森保監督は6月の4連戦(パラグアイ、ブラジル、ガーナ、チュニジアで2勝2敗)で移動や、戦術のミーティングもいつ行なうか、スケジュールもかなり実践的にしていたんではないか。本番の準備時間がない分、最終予選や今回の6月シリーズで試した形を、これから洗練させて行けば通用するんじゃないか、というところまでは来ているんだろう。

 最終メンバーの選考も、ロシアの時とは全く違う。森保監督には、岡田監督や僕も経験していない4年間もの、ものすごく充実した蓄積があって、その財産が彼の自信でもあるし、ブレない根拠なんじゃないかな。選手との会話、どういう対応をしたとか、オリンピックもありましたから、その量も質も計り知れないし、この信頼関係が、これまでの代表監督とは全く違う一番の強みになるんだと僕は思っている。だから、彼は肝が据わっている。監督の質ってそれぞれだが、僕のそれとは違うんですよ、ポイチ(森保監督)の資質は」

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