【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の三十四「環境が選手を育てる」

2015年09月03日 小宮良之

恵まれた環境は、必ずしも良いとは限らない。

90年代におけるスペイン代表の守護神を長く務め、後にバルセロナでSDにもなったスビサレータ。生まれ故郷であるバスクの土壌が、GKの基礎的素養を高めることにつながった。(C)Getty Images

「環境が選手を育てる」
 
 それはサッカー界におけるひとつの常識だ。では、どんな環境がベストなのだろうか?
 
「なんでも揃っている恵まれた環境が良い」と思うかもしれないが、実は必ずしもそうではない。
 
 サッカー選手は、ワイン作りにおけるブドウの木にも喩えられる。皮肉なことだが、肥えた土地では良い実がならない。むしろ荒涼として見える土地でこそ、ブドウの木は地中深くに根を張る。ミネラル成分を多く含んだ水を吸い込むことで、その生命力が至高の実を作り上げるのだ。
 
 テクニックの高い選手の世界分布図を見ると、刮目させられる。優れた施設があるより、むしろハード面に遅れが目立ち、ストリートサッカーの土壌が残っている南米の国々にそれは集中する。悪辣とした状況に置かれるなか、自分の技術を出すための創意工夫を重ね、もともとの能力を洗練させるのだろう。そうした選手は必然的に順応力も高く、環境に左右されない。
 
 環境は、選手の才能に化学反応を与える。
 
 例えば90年代までのスペインでは、優秀なGKは悉くバスクから生まれている。これは拙著『おれは最後に笑う』でも書き記したが、スペイン代表の歴代ゴールマウスは、50年代のカルメロ・セドゥルン、60~70年代のホセ・アンヘル・イリバル、80年代のルイス・アルコナダ、90年代のアンドニ・スビサレータなどいずれもバスク人が守ってきた。
 
 バスク地方からGKが輩出された理由としては、ビーチサッカーの伝統と地元の人気スポーツだったペロータ(素手で硬球を壁に打ち返す、スカッシュに近い競技)が挙げられる。ビーチサッカーは潮が引いた砂浜で盛んに行なわれていたが、「ダイブした時の衝撃を和らげ、GKの思い切ったプレーを助長させた」と言われる。また、砂浜での動きは足腰の鍛錬になったという説もある。そしてペロータは小さなボールを素手で打つという作業であり、GKの基礎的素養を高めることにもなった。

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