並のFWとは違う動き――ガーナ戦は無得点だったCF上田綺世をポジティブに評価できるワケ

2022年06月12日 河治良幸

周りに点を取らせる動きも大事になってくる

ガーナ戦で先発した上田。自身はノーゴールも、味方を活かすポジショニングは、さすがだった。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部/JMPA代表撮影)

 日本代表はキリンカップの初戦で6月10日にガーナと対戦し、4-1で勝利した。ミスによる失点は反省材料だが、ガーナがコンディション的に厳しかったことを差し引いても、ポジティブな要素やアピール材料の多い試合となった。

 山根視来、三笘薫が得点し、久保建英と前田大然に嬉しいA代表初ゴールが生まれた試合で、CFで先発出場した上田綺世にはゴールもアシストもなし。ストライカーとしての立ち位置を考えれば"蚊帳の外"と見られても仕方がない部分もある。

 しかし、その上田もポジティブに評価できる部分はいくつも見られた。CFとしての役割を考えると、周りに点を取らせる動きも大事になってくるからだ。

 鹿島の大先輩である大迫勇也も57試合で25得点を記録しているが、つまりは毎試合ゴールを取れているわけではない。それでも評価と信頼を得てきたのは、チームとして点を取るための基準点としての役割を果たしてきたためだ。

 選手たちは試合前の時点で、ガーナは4バックと想定していたという。実際、これまでアフリカ予選や直近のネーションズカップ予選でも4バックがメインだった。しかし、柴崎岳によると両チームのメンバーが発表されて、アップをしている時にスタッフから「3バックがあり得るよ」と情報を与えられたという。

 日本は4-3-3で前線に右から堂安律、上田、三笘が並び、インサイドハーフに久保と柴崎という並びだったが、相手側が4バックなのと5バックでは取るべき攻め口がかなり変わってくる。中央3人に対してCFは上田が一人なので、いわゆるペナ幅に飛び出していくスペースがほとんど無い。

 その一方で、高い位置では3-5-2、低い位置では5-3-2というガーナのディフェンスは、左右のウイングバックと3ハーフの脇が空きやすく、日本は右なら堂安、久保、右SBの山根でトライアングルを作った時に、必ず一人はフリーの選手ができていた。左は柴崎、三笘、左SBの伊藤洋輝だ。

 端的に言ってしまえば、上田が一人でCBの3人を見る形を取り、左右のサイドから崩しの起点を作りやすくなる構図になる。柴崎も「相手は3バックだったというところが1つ大きかったかなと。必然的にゴール前に人数が多くなる。2センターの時と3センターではギャップができづらかったりとかが違ってくるので」と振り返る。

「スルーパスや縦パスをギャップで受けるというシーンがなかなか作るのが難しいというのがあるので。綺世もその辺はやりづらさを感じたんじゃないかと思いますけど、彼は彼でセンターバックを引っ張る役割とかを意識してやっていたと思います」
 
 その視点で上田の動きを見ると、直接ボールに触っていなくても、彼がピッチにいた時間に日本が挙げた全てのゴールに上田は関わっている。だからこそ点を取ったかどうかだけではない評価基準も必要になってくる。

 29分の山根による先制ゴールは、右サイドでインナーラップ した山根が外にボールを流して久保が折り返し、堂安がワンタッチで出したスルーパスを受けた山根が左足で流し込むという形だった。ガーナは一時的にアンカーのムバラク・ワカソが吸収されて6バックになっていたが、山根はそのワカソとアリドゥ・セイドゥの間を抜けてフィニッシュに持ち込んでいる。

 その時に上田は、ワカソと3バック中央のエドムンド・アッドと右のダニエル・アマーティの間にポジションを取ることで、裏抜けした山根にフリーでシュートを打てるスペースを提供した。そのまま山根が左足で決めたのだが、ここで上田が並のFWとは違う動きをしたことを見逃すべきではない。

 山根がシュートモーションに入る直前に、バックステップしてフリーになっていた。もし山根がここでマイナスのパスという選択をしていたら、フリーでシュートを打っていたのは上田だったのだ。

 中央で相手のCBを引きつける動きは予想通りだし、そこからGKが弾いた場合に押し込む動きも分かる。しかし、ここでボール保持者がパスという選択をした時にフリーで受けられるポジションに動き直せる選手というのはそうはいないだろう。
 

次ページ本格派ストライカーならではの“磁力”

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事