【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の三十三「監督の力量とは」

2015年08月26日 小宮良之

チームを束ねる人間の力量によって、個人のプレーにも大きな差が出る。

今季に加入するやいなや、サイドで抜群の存在感を発揮するD・コスタ。グアルディオラ監督に長所を引き出される形で、「ブラジルではネイマールしかタレントがいない」わけではないと証明している。(C)Getty Images

 ピッチに立ってプレーをするのは選手であって、監督ではない。
 
 しかしながら、フットボールというスポーツは個人競技ではなく、団体競技である。だからこそチームを束ねる人間の力量によって、個人のプレーにも大きな差が出る。
 
「全体的に選手の質が落ちた。ネイマールしかタレントがいない」
 
 そう嘆く人も少なくないフットボール王国のブラジルだが、本当に選手の質だけの問題なのだろうか?
 
 ドグラス・コスタはセレソンで真価を発揮し切れず、代表メンバーに入っても出場は限定的だが、今季から所属するバイエルン・ミュンヘンでは飛躍の気配を漂わせている。1対1に滅法強く、右でも左でもサイドを苦にせず、ドリブルで仕掛け、抜き去り、そして鋭いシュートを打てる。フランク・リベリ、アリエン・ロッベンのポジションも脅かす勢いである。
 
 ジョゼップ・グアルディオラ監督が、代表では不遇のドグラス・コスタの長所を十全に引き出しつつある、とも解釈できる。
 
「ブラジルに名選手がいなくなったわけではないだろう。そもそもブラジルには名監督がいない」
 
 欧州のクラブ関係者は口を揃える。事実、これだけ多くのブラジル人選手が海を渡ってきたにもかかわらず、ブラジル人が監督として欧州クラブで成功を収めた例は皆無に等しい。
 
 翻って、ヴァイッド・ハリルホジッチは適正の選手を選び、その長所を使い切っているのだろうか?
 
 東アジアカップ、縦に速い攻撃を意識した選手選考だったのだろうが、そのためのプレー精度が足りていなかった。ゴール前に迫っても、ゴールを仕留める力を欠いていた。中盤の選手も献身的に走り回ったが、ポジションを留守にすることが多く、セカンドボールを拾えずに波状攻撃を浴び続けた。長所を出せず、短所を抉られ、敗戦の憂き目を見ることになった。
 
 試合を重ねるごとに選手たちは落ち着きを取り戻していったものの、0勝2分け1敗という惨憺たる結果に終わっている。率直に言って、代表にふさわしい成果をJリーグで上げている選手もいたが、その特長を出せてはいなかった。

次ページ少なくとも、日本人選手はアジアで対等以上に戦うだけの実力を持つ。

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