フランクフルトを決勝に導いた鎌田大地の“ピルロのような”パス。「ミスターEL」はやはり特別な存在だった【現地発】

2022年05月09日 中野吉之伴

「全ては決勝のために」

EL決勝進出が決まり、喜びを分かち合う長谷部(左)鎌田(右)。(C)Getty Images

 鎌田大地と長谷部誠が所属するフランクフルトがヨーロッパリーグ(EL)準決勝でプレミアリーグのウェストハムを下し、悲願の決勝進出を決めた。

 フランクフルトがブンデスリーガで低迷し、2部降格を繰り返し、スタジアムがファンの失望で包まれていたのはそんなに昔の話ではない。だが、いまではドイツだけではなく、ヨーロッパ中にその名をとどろかせている。

 後ろに控える熱狂的なサポーターは欧州中をチームとともに行脚し、アウェー戦でもチケットを手に入れるために粘り続け、チケットが手に入らなくともできるだけチームの近くで応援しようとする。そんなファンとともに、フランクフルトはヨーロッパのサッカー史にその名前を刻むところまできた。

 ウェストハムとのセカンドレグでは、クラブのこれまでの歴史動画が試合前のモニターで流れ、そして最後に次のメッセージで流れた。

「全ては決勝のために」

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 これまでの苦しさも、悲しさも、やるせなさも、歴史的なこの夜を彩るための糧となれ。ファーストレグを2-1で先勝していたフランクフルトに対して、監督のオリバー・グラスナーが送った言葉に心が震えてくる。

「君たちがベストプレーヤーかどうかはわからない。私たちがベストのコーチ陣かどうかはわからない。でも一丸となった私たちは普通を超えた存在になれる。一つになった私たちは、ベストだ」

 ゴール裏のファンからの壮大なコレオ。迫力満点の演出。ピッチからその様子を眺めていた選手はそれぞれ、みなぎってくる気持ちの充実を感じていたことだろう。「ファーストレグよりもいいパフォーマンスを見せなければならない」と話していたグラスナー監督の要求通りに、切れ味鋭い動きを連続で見せる。

 守備の要マルティン・ヒンターエッガーの負傷。ウェストハムCBの退場。ラファエル・ボレによる先制点。目まぐるしい展開にスタジアムのボルテージはどんどん上がり、フランクフルトはこの試合を掌握していく。最後まで危なげなく試合を運び、そしてファンの喝采の中、ファーストレグと合わせて2点のリードを守ったまま、試合終了のホイッスルが吹かれた。

 ゴール裏のファンがピッチ上に殺到する。抱き合い、もみくちゃになってグラウンドに転がり、これ以上できない笑顔で笑いあう。しばらくしてファンの波が一度去ると、決勝進出記念Tシャツを着た選手がまたグラウンドへと姿を現した。選手が一緒になって歌いながら拍手を合わせ、スタジアムが一つになってそしてまたフランクフルトの歌が重なりあっていく。

 そんな風景をピッチ上の鎌田はスマホで撮影をして、両手を上げて喜んで、ずっとずっと笑顔でチームメイトと嬉しそうにしていた。この大一番でも、動きは抜群だった。試合の流れを変えたのも鎌田からのパスだった。

【動画】スタジアムを埋め尽くしたファンによる圧巻の光景! 鎌田が公開した動画をチェック

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