充実感に包まれたカズ。55歳のサッカー少年は夢を追いかけていた頃と何も変わらず、眩しい笑顔を浮かべていた

2022年03月16日 徳原隆元

32歳。現役としての姿はあと3年くらいと思い描いた

55歳となった今も現役としてピッチに立つカズ。戦う舞台を求め続ける永遠のサッカー少年の歩みはまだ止まりそうにない。写真:徳原隆元

 1999年12月30日。あるいは31日だったかもしれない。

 街のあちこちで新年を待ちきれないパウリスタ(サンパウロっ子)たちが鳴らす爆竹の音が響き渡っていたこのとき、三浦知良は彼のサッカー選手としての原点であるブラジルのサンパウロにいた。

 友人のブラジル人カメラマンからカズがサンパウロに滞在していて、話を聞けるから来ないかという誘いの連絡があり、すぐに部屋を出た。場所はリベルダージ(日本人街)の日系人が営む土産店の2階。

 約束の時間に黒のジャケット姿でやって来たカズはピッチで見せる情熱とは違い、静かにサッカーのことについて話をしてくれた。15歳でブラジルに来たとき、日本人がサッカー選手の格好をしているだけで笑われたことや、デコボコのピッチに苦戦したこと。19歳でプロ契約した名門サントスFCでも批判されたことなど。

 しかし、カズは多くの試練や批判を不屈の闘志で覆していく。その努力が結実した例が、ブラジル国内のチームを渡り歩き、サントスFCに返り咲いたときの試合だ。強豪パルメイラスとのクラシコでカズは1ゴール・1アシストを記録し、サンチスタ(サントスFCサポーター)たちの心を掴むことになる。

 カズは「我慢、絶対にチャンスを掴むんだという強い気持ち」を心に秘め、サッカーの本場ブラジルで成功を勝ち取っていったのだった。
 
 20年以上の歳月が流れたいま思うと、このときの会話で最も興味深いのは、カズが自分のサッカー選手としての行く末について語った言葉だ。

「レベルを落とせば37、38歳くらいまでできると思う。でも自分のなかでイメージしているサッカーがある。トップレベルのサッカーができるのはあと2、3年くらいかな」

 そう語った当時のカズはブラジル、イタリアに続く海外3か国目となるクロアチアでのプレーを経て、京都サンガF.C.のユニホームに袖を通していた。年齢は32歳。自分の現役選手としての姿はあと3年くらいと思い描いた。

 しかし、2022年3月13日、JFL開幕戦の鈴鹿ポイントゲッターズ対ラインメール青森戦のピッチには、30代だった彼自身が想像さえしていなかった現役選手としてのカズがいた。
 

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