レフェリングの新たな傾向。原博実副理事長に聞くJリーグが“激しくもフェアでタフでエキサイティング”に変貌した理由

2022年01月05日 江藤高志

反則ポイントは減少傾向に

レフェリーとともに各クラブへ働き掛けてきた原博実Jリーグ副理事長(写真左)。荒木友輔主審が担当した昨年末の天皇杯決勝でも変化が見えた。

 浦和が大分を下し、優勝を果たした2021年末の天皇杯決勝では両チームのタフなぶつかりあいが随所に見られた。競り合いで選手が倒れた場合でも、荒木友輔主審は簡単に笛を吹かず。2020年からJリーグで示されてきたレフェリングの傾向が示されていた。

 タフな競り合いと反則が区別される傾向は、反則ポイントの減少として可視化されている。例えば直近5シーズンを振り返ると、J1、J2、J3いずれのディビジョンでも減少傾向にある(2ページ目の図)。

 その要因のひとつにポゼッションサッカーの優位性があるのだろうが、もうひとつの背景として2020年シーズンを前に、タフで激しいプレーへの変容を求める一連の活動があったと考える。そこで原博実Jリーグ副理事長に話を訊きつつ、この活動についてレポートする。

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「本格的にスタートしたのは2020年からだったけど、その前の年ぐらいから、少しずつ始めていて。新人研修会で村井(満チェアマン)さんが話した後に話したりして。2020年は映像を作ってね、手分けして全クラブを回ったんだよね。スタンダードの講習会(判定基準についての説明会)に合わせて、監督、選手がいる前で。それは俺も話したし、審判の人にもこうやるよって言ってもらって」

 原副理事長が2020年シーズンを前に各チームに示したのは、リーグとして求めたいプレーを映像でまとめたものだった。

「それまでのJリーグは選手がすぐに倒れて、ファールをもらおうとしていた。それに対し、審判の方もやっぱりあれで倒れられてしまうと、どうしても取らざるを得ない、みたいな話が出てね。選手側と審判側と、お互いの言い分はあるんだけど、それをタフな方向に変えることでまとめたのね」

 Jリーグには「マリーシア」と呼ばれるずる賢くプレーする価値観が称賛される時期があった。その一方で、世界のサッカーは激しさとタフさの中で行なわれるのが普通の状況になっている。

「だから、激しくてフェアで、エキサイティングみたいなキーワードを決めて、それをみんなでやろうっていうことで、あの年から鮮明に出したんだよね」と原副理事長。そして「それを選手と監督に言わなきゃいけないと考えて、それをスタンダード講習会とセットでやらせてもらった」と振り返る。
 
 原副理事長は自ら回れるクラブに足を運び、手が足りないところはサポートを受けつつ2020年シーズン開幕前に説明を終えた。

「全クラブに行ってスタンダード講習会の前に、こういうシーンを見たいんだって、いいシーンを見せて。倒れずに続けるプレーを見せて、これを見たいんだよっていうのを説明して、分かってもらった。質問があれば選手からも監督からも聞いた」

 2020年はVARの本格導入が予定されていた。結果的に新型コロナウイルスの影響で1年先延ばしになったが、シーズン前に特に細かく想いを説明したと原副理事長は振り返る。

「VARを導入するところだったから、余計一緒に細かくやったかな、J1は。その相乗効果だと思う。選手たちも最初は違和感があったみたいだけど、本当に取らないんだなということで、次第にファールが取られないことに慣れていったよね」

 丁寧にファールを取ることで試合が細切れになるよりも、少々の激しさを許容したほうが試合としては面白くなる。リーグとして審判委員会を巻き込んで判定基準を見直したのが、2020年シーズンだったのだ。

「審判委員会の扇谷(健司)委員長のとこに行って彼らとも話をして、映像作る時から関わったんだよね」

 審判委員会はシーズン開幕を前に「レフェリングスタンダード」と呼ばれる映像を作成し、競技規則に従ったプレー映像を監督、選手に公開。判定について解説してきた。原副理事長はこの映像作成の現場から関わり「本当に激しくて、いいプレーをもっと出して、本当にダメなプレーはダメだということで、やってもらったんだよね」と話す。

「それまでは審判委員会に任せて、イエローだレッドだ、ファールじゃないって映像を作っていたところに俺らも加わって、もっとこういうプレーをやりたいっていうシーンを多くしようって一緒に相談して決めたんだよ。それは大きかったと思うんだよね。それで審判サイドの目線だけじゃなくて、我々リーグ側とか選手から見た視点とかも加えて、審判委員会もそれを理解してくれて。あとはサポーターにもそれを言わないと。そういった全てがある程度うまく回ったかなという風に思うけどね」

 コロナによる環境の変化に合わせ、スタンダードの講習会も見せ方を変化させ、その効果もあるのではないかと原副理事長は話す。

「キャンプ時に審判が回ってやっていたんだけど、コロナで回れなくなって。それでWEBでもちゃんと見えるようなのも作って、それで個人個人でテストする形式に変えたのね。100点を取らないと試合に出られないよ、ということでね。ルールについては、勘違いされている部分もあるからね。選手側の勘違いで審判に抗議するってこともあったんだけど、選手の理解が進めばそれが減るからね。そういう部分も大きいかもしれないね」

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