いきなり部員の半数が退学も…プロジェクト開始3年で県予選決勝まで登り詰めた相生学院高の紆余曲折

2021年11月10日 加部 究

伝統校の滝川二高と一歩も譲らない戦いを演じた、淡路島の無名校の快進撃

相生学院のキャプテン白倉。チームメイトからは絶大な信頼を寄せられている。(C)TAMURA PHOTO

 全国高校サッカー選手権の兵庫県代表の権利を獲得したのは、岡崎慎司、加地亮、波戸康広ら多くの名選手たちを輩出した滝川二高だった。だが一方で21度目の選手権切符を手にした伝統校と決勝戦で一歩も譲らない互角の戦いを演じたのは、3年前に無名の中学生たちを集めてプロジェクトをスタートしたばかりの相生学院だった。

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 ユニホームの胸に刻まれた通り、相生学院が活動の拠点としているのは淡路島だ。そこには選手たちが生活をする寮と、自前ではないが年間を通して利用が可能な天然芝、人工芝、屋内トレーニング施設などがある。上船利徳総監督は、ここに育成の理想郷を築き、新たな発信をしていこうと考えた。

 現在は「プロフェッショナル・フットボール・アカデミー」と命名されているように、原点はプロを目指せるような選手たちを輩出していくことだった。そのために通信制の利点を活かして勉強時間を短縮効率化し、トレーニングは午前中を中心にして、空き時間にはセミナーや社会活動などを組み込み、人間力を養っていこうと企画した。こうして上船は母校でもある神村学園と交渉し、サポート校として登録を済ませて兵庫県内の公式戦に出場してきた。

 ところが昨年の選手権予選が始まる直前に、兵庫県高体連から「サポート校では選手権には出場できません」と連絡を受ける。「こちらの確認不足でした」と謝罪されたが、青天の霹靂で上船は選手たちの新天地を探さなければならなくなった。さすがに同高体連も在校生たちの選手権予選出場は約束したが、それでは継続的な活動は見込めない。選手権の登録期限が迫る中で、上船は片っ端から県内の学校と連絡を取り、奇跡的に理事長が理解を示す相生学院に辿り着く。理事長は顔を合わせるなり「キミの目を見れば、いかに本気かが判る」と気に入ってくれて、淡路島の現地視察を済ませた翌日、双方は長い話し合いの末に合意。契約書にサインをしたのは深夜の2時だった。

 もともと相生学院にはサッカー部が存在し登録料も収めて来た。だが監督はいても事実上部員はゼロ。当然高体連には選手権予選に不参加の返答をしていたが、急遽変更して参加登録に滑り込んだ。

 実はプロジェクトは初年度から頓挫しかけていた。最初の夏には、当初入学して来た選手21人中16人が帰宅してしまう。上船は残った選手たちに「これからも全力で良い選手に育てていく」と宣言するが「やはり今振り返れば寂しい練習でした」と苦笑する。結局10人はそのまま退学。プロを目指す覚悟のある生徒を募ったつもりでも、全員の熱量を揃えるのは至難の業だった。
 

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