森保一は監督として重要な資質を備えている!だが「いいひと」では大成できない――。先達から読み解く代表監督の系譜

2021年10月13日 佐藤俊

変人扱いされても厳しい決断をした監督のほうが結果を出している

豪州戦で見せた変化を森保監督は持続できるか。写真:金子拓弥 (サッカーダイジェスト写真部/JMPA代表撮影)

 オーストラリア戦後、勝利した森保一監督の眼は少しうるんでいるように見えた。

 勝利インタビューを終えた後、応援したくれたサポーターに感謝すべくゴール裏に行き、言葉を掛け、頭を下げた。フランス・ワールドカップ・アジア最終予選からこれまでいくつもの最終予選の試合を見てきたが、わざわざ出向いて感謝の言葉を伝えた監督は、森保監督が初めてだろう。

 森保監督の人間性について悪い評判はほとんど聞いたことがない。

 岡田武史元日本代表監督も「森保さんは、本当にいいひと」と何度も口にしている。

 どんな人の声もしっかりと聞き、常に丁寧に対応する。サッカーのトレーニングや戦術などの引き出しが多く、戦術論は選手はもちろん引退した選手や解説者もうならせるものがある。熱心な勉強家だが、それを自慢することもない。自分の考えをそう簡単に曲げない頑固さはあるが、監督であれば自己の信念を簡単に捨てるわけにはいかないので、そういう意味では監督としての重要な資質のひとつはしっかりと備えているといえる。

 森保監督は、人間的には素晴らしい。だが、「いいひと」だけでは勝てないのが勝負の世界だ。

 逆に我儘で言動が極端で、変人扱いされても厳しい決断をした監督のほうが結果を出している場合も多い。

 2002年の日韓ワールドカップの時に日本代表を指揮したフィリップ・トルシエは、報道陣はもちろん、協会とも衝突した。だが、シドニー五輪、ハッサン国王杯などのギロチンマッチをクリアして生き残り、史上初のベスト16進出に導いた。当時は、過激な言葉で選手を罵倒し、胸ぐらを掴んで威圧するなど、一連の振る舞いから変人扱いされていたが、若い選手を育成するには必要な手段だったと小野伸二ら評価する選手も多かった。
 
 トルシエとタイプは異なるが、岡田武史元監督は、常に厳しい基準を示し、秘めた決意と大胆な改革でチームを勝利に導いてきた。フランス・ワールドカップ最終予選時、加茂周監督が解任された後、ウズベキスタン戦では主力の中田英寿を外すカンフル剤を打った。南アフリカ・ワールドカップ・アジア最終予選では病に倒れたオシムの後を継いたが、3次予選アウェーのバーレーンに敗れると方向転換し、長谷部誠や長友佑都らを次々と入れてチームを変えていった。

 一番、驚いたのは南アフリカ・ワールドカップ直前だ。システムを変え、レギュラー選手、さらにキャプテンまで変えた。その結果、南アフリカではベスト16に進出した。結果オーライと言われるが、大会前のチームでは勝てないと判断し、そこから大改革を断行した決断力と実行力は見事だった。

 ただ、例外もある。ハリルホジッチはトルシエに似たタイプだが、うまくいかなかった。「デュエル」は必要な要素であり、それを直視すべきという視点を持たせてくれたことは大きいが、そこを重視し過ぎ、縦に早いサッカーにチームを押し込もうとした。そのためにはコミュニケーションが必要だったが、それを欠き、結果、選手との信頼性が薄れてきたという判断で解任された。
 

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