【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の二十三「真の強化策」

2015年06月18日 小宮良之

辞退した理由は、理に適っているが…。

もうひとつのA代表を擁して、コパ・アメリカに臨むメキシコ。若手が主体でありながら堂々と戦い、委縮している様子はない。 (C)Reuters/AFLO

「強くなるための最良の処方箋は、自分たちよりも強い相手との試合を重ねることだ。試合ごとに修正し、鍛錬する。そうやって勝てる方策を見出そうとするなか、真の強さを得られる」
 
 どの国の指導者が言ったのか、忘れてしまった。それはおそらく、誰が言ってもおかしくないほどの「強化の一般論」だからかもしれない。
 
 6月11日、日本は横浜にイラクを迎えて4-0の完勝を収めた。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は着実に選手の力量を掌握し、戦力アップの道筋を作り始めた。ブラジル・ワールドカップとアジアカップの惨敗で自信を喪失したチームに目標と緊張感を与え、あまつさえ競争力を高めている。「縦への速さ」を選手が早くも意識して実践するなど、その采配にはほとんど非の打ちどころがなかった。
 
 しかし、残念ながらイラクが相手では世界を測ることはできない。能力が低いうえに、士気まで乏しかった。
 
 果たして強化として、どこまで効果があったのか?
 
 現在開催中のコパ・アメリカに、日本は招待を受けていた。しかし2013年10月の時点で、早々と辞退を決定。主な理由としては、「A代表で行かなければ失礼になる」ということだった。FIFAの規定では、選手の大陸別選手権への拘束力は同一年度に1大会のみ。今年1月にはアジアカップに出場したため、原則的にコパ・アメリカにはA代表が派遣できなかった。
 
 辞退した理由は、理に適っている。同じ時期にワールドカップ・アジア予選とコパ・アメリカをふたつの代表が戦う、というのも国内での興行ビジネスにおいて問題が生じかねなかったのだろう。しかし「日本サッカーの強化」に絞れば、コパ・アメリカは最高の試練の場だった。日本と比べて同等か格下の相手を国内に招いて、いくら"強化試合"をやったところで、整備はできても強化は難しい。
 
 例えばコパ・アメリカ招待国であるメキシコは、7月7日から開幕するCONCACAFゴールドカップという北中米・カリブ海地域のカップ戦にA代表が出場する。その一方、ラファエル・マルケスなど数人のベテラン選手を混ぜた"もうひとつのA代表"を編成し、若手が主体でありながら堂々とコパ・アメリカに参加している。当然だが、「失礼ながら」と恐縮している様子はない。

次ページ劣勢は、逆説すればこれ以上ない腕試し。

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