商業主義に突っ走り、メッシを失ったバルサ。スポンサーの資金力頼みのクラブは、いつか坂道を転げ落ちる【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2021年08月23日 小宮良之

「胸にはなにも入れない」がポリシーだった

バルサの退団会見で涙を流すメッシ。このような事態に至った背景は? (C)Getty Images

 この時代、プロクラブが生き残るのは難儀な仕事である。

 例えば世界のビッグクラブであるFCバルセロナは、過去15年で劇的に変わってきた。彼らなりに、商業主義の時代を乗り切ろうとしたのか。しかしその末路は……。

 2006年、バルサはひどい赤字に喘いでいた。もはや、胸スポンサーを入れるしかなかった。しかしクラブ創立以来、「胸にはなにも入れない」がポリシーだったことで、猛反対が予想された。そこで、まずはユニセフのロゴを胸に入れることを検討。これはスポンサー契約ではなく、むしろ年間約2億円の寄付だった。言わば、ソフトランディングを図ったのだ。

 結果、2011年にカタール財団の広告を入れる時には反対の声が上がったものの、人々はその風景に慣れてしまっていた。すでに胸にロゴは入っていたこともあって、多くの人々が「時代の流れ」として、変化を受け止めたのである。はたして流れに乗ったのか、流されたのか――。いずれにせよ、そこからのバルサは商業主義へまっしぐらに突っ走るようになった。

 湯水のようにお金を使って、有力選手を補強した。その話題性を糧に、スポンサーを取り込もうとしたのである。しかしすべての補強が場当たり的だった。

 やがて、大半は"不良債権"のようになってしまう。年ごとに、200億円単位の移籍金の"スター選手たち"を用意し、20億、30億円もの年俸を支払えば、どれだけスポンサー料が入っても、経営は厳しくなる。しかも、金額に見合った活躍は全く見せていない。年俸と合わせて10億円以上を払いながら、「幽霊選手」と言われたブラジル人もいた。

 一事が万事、この調子だった。降ってわいた大金をやがて使いつくし、金庫は空になってしまい、選手たちに莫大な借金を負っていた。エースであるリオネル・メッシが年俸50%カットを承諾しても再契約できず(国の規定上、それ以上は給料を下げられない。メッシに対しては60億円以上の借金)、むざむざとパリ・サンジェルマンに引き渡してしまった。なんと無様な結末か。

 それがバルサの実状である。
 
 有力なスポンサーはありがたい存在だが、大金に踊らされると怖い。クラブは、あっという間に坂道を転げ落ちる。メガクラブであるバルサでもゆゆしき事態で……。

 Jリーグのクラブが、有力スポンサーをバックに"成金趣味"のように走ると、早晩、袋小路に追い詰められるだろう。隆盛は花火のように終わりを告げ、有力選手を売却せざるを得ず、事業そのものを縮小するしかない。そこからは、クラブ存亡の危機とのせめぎ合いだ。

 クラブとして強くなる。それは決して簡単なことではない。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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