【コパ・アメリカ】ぶらり旅@チリ「知恵と身体を駆使して問題を解決する――それが彼らのフットボール」

2015年06月14日 熊崎敬

開幕3日目にして早くも「爆弾」が落ちた。

メッシの活躍で2点を先行しながら、アルゼンチンはパラグアイに追いつかれてドロー発進。これぞコパ・アメリカと言えるような、熱のこもった好勝負だった。 (C) Getty Images

 コパ・アメリカを取材するため、チリに飛んだスポーツライターの熊崎敬氏。
 
 サッカーの神髄を探して南米大陸に降り立った熊崎氏が綴る取材記をお届けします。
 
――◆――◆――
 
 チリの大地を踏んで今日で5日が経った。
 コパ・アメリカは、まだ開幕したばかり。だが、ここまで来てよかったという思いは、すでに確信に近い。
 
 開幕3日目にして、早くもトーナメントに「爆弾」が落ちた。
 ワールドカップ準優勝国と南米予選最下位の国の対戦となったアルゼンチン対パラグアイが激闘の末、2-2に終わった。大本命のアルゼンチンが、2点を先行しながら追いつかれたのだ。それは掛け値なしの名勝負で、地元のチリ人も我を忘れて絶叫するほどだった。
 
 さて、私にとって初めてのチリ、初めてのコパ・アメリカは、ちょっとしたトラブルから始まった。フライトと乗り継ぎで35時間を費やし、ぼろ雑巾のようになった私は、早速タクシーでぼられたのだ。
 
 いや、言い訳をさせてほしい。空港では群がる白タクの誘いを華麗にはねつけながら銀行に向かったのだが、気がつけば悪いヤツと立ち話をしていたのだ。
 
 自分でも、なぜそうなったのかわからない。
 地に足をつけて行動しているつもりでも、知らず知らずのうちに浮き足立っていて、そこを敵に付け込まれる。これがアウェーの怖さだろう。
 
 私たち記者は、失点したチームや選手を「集中力が足りない」「いい加減、学習しろ」などと非難する。だが、そんなことは選手だってわかっている。そう、白タクに注意しなければいけないということは、私だってわかっている。
 
 それはメッシにしても同じことだ。
「敵はメッシだ。集中して抑え込め」
 監督が口を酸っぱくして指示をしても、メッシは抑えられないのだ。それが人間というもの、サッカーというものだ。
 
 キックオフ直後、間抜けな失点を喫した私の頭に浮かんだのは、アニータのことだった。
 アニータ・アルバラード。19歳で来日し、29歳で日本人男性と結婚。結婚前から夫に10億円を超える巨額を貢がせ、豪邸を建てたチリ女性のことだ。夫は14億円を横領した罪で逮捕された。
 
 何もかも違う日本、それも青森という田舎に飛び込んだ彼女は、生まれ持ったものを武器に「敵」を籠絡して、信じられない大金を手に入れた。スキャンダルを利用して映画に出演し、歌も出した。これは大変な才覚という他ない。アニータは日本というアウェーで、面白いようにゴールを決めたのだ。

次ページ一つひとつのプレーに、人生観が滲み出る。

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