【連載】識者同士のブンデス放談「W杯優勝から1年、ドイツ代表はどこに向かっているのか」

2015年06月14日 遠藤孝輔

ゲッツェを頂点に置くゼロトップの構築に取り組む。

このゲッツェのゴールでブラジル・ワールドカップを制してから1年、ドイツ代表はどんな歩みを見せ、どこに向かおうとしているのか。 (C) Getty Images

遠藤孝輔:ブラジルでの世界制覇から1年が過ぎようとしていますが、ワールドカップ以降のドイツ代表は4勝2分け3敗(6月12日現在)と苦戦気味です。レーブ監督はどんな強化を図っているのでしょうか?
 
浜野裕樹:ゲッツェ(もしくはミュラー)をシステムの頂点に置くゼロトップの構築に取り組んでいますね。ワールドカップ決勝の延長でも使っていました。
 
 代表引退したクローゼのような典型的なセンターフォワードがいない事情がありますし、世界の戦術トレンドをしっかりチェックしているレーブ監督らしいチョイスだと思いますよ。
 
遠藤:そのゼロトップはポジションチェンジが大きなカギですね。
 
浜野:トップの位置にいるゲッツェが2列目まで下がることで、相手のバイタルエリアで数的優位を作りやすくなっています。また、エジルやミュラーとの流動的なポジションチェンジを駆使して、相手のギャップをうまく突けています。
 
遠藤:ミュラーはともかく、アーセナル移籍以降のエジルはクラブシーンで大活躍しているわけではありません。ただ、代表では依然として不可欠な存在ですね。
 
浜野:エジルはバイタルエリアへの入り方がプレミアリーグでさらに磨かれました。ミュラーはもともと、右サイドから中に入る動きで相手のマークを外すのがとても上手。
 
 中盤で数的優位を作れば、ボールを失った際に素早くボール近辺に人数を集めることができる。ゼロトップにはそんな思惑もあります。
 
遠藤:EURO2016(@フランス)に向けて、このままゼロトップが基本となりそうですか?
 
浜野:少なくともクローゼのような本格的なフォワードが台頭するまでは、このシステムを中心に戦っていくはずですよ。
 
遠藤:ただ、どうでしょう。先日のアメリカ戦(●1-2/ホーム)や昨年のポーランド戦(●0-2/アウェー)など、うまくハマらなかった試合もあります。
 
浜野:アメリカ戦は試合だけでなく、前日練習も現地で見てきました。その前日練習では、ゴールキックからの繋ぎを集中的に行なっていましたね。前からプレスをかけてくるアメリカを想定したトレーニングでしょう。
 
 しかし、蓋を開けてみると、アメリカはそれほど前からプレスをかけてこなかった。少し肩透かしをくらったように見えました。
 
遠藤:ドイツ国内での反応はどうでしょう。王者の歩みは順風満帆と見ているのか、それとも物足りなさを感じているのか?
 
浜野:ドイツ代表は往々にしてフレンドリーマッチではイマイチなんですよね。もちろん、ファンは素晴らしい試合を期待していますよ。彼らの代表への期待値はとても高いです。
 
 ですから、アメリカ戦は物足りなさを感じたはずです。ただ、心のどこかで「まあ、フレンドリーマッチだし」と思っているかもしれません。
 
遠藤:浜野さんはアメリカ戦をどう評価しました?
 
浜野:シーズン終了直後という時期、主力が離脱中という戦力事情を考慮すれば、よくやったと思います。
 
 ただ、細かいところで差が出たのは事実です。1失点目はボールを奪われた後、ボランチのギュンドアンの切り替えが遅かった。
 
 2失点目は相手に斜め方向へのパスを入れられる前に、同じくボランチのクラマーがあと一歩パサーに寄せてほしかったし、ムスタフィとリュディガーの両センターバックも対応が一歩ずつ遅かったですね。

次ページ前線は駒が揃う反面、サイドバックは人材難。

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