東京五輪で見えた強豪国との距離。「頑張って戦う」先に森保ジャパンのW杯ベスト8入りはあるか?

2021年08月09日 加部 究

五輪は欧州勢とは試合さえ組めない状況を考えれば、ワールドカップへの貴重な試金石となった

日本はA代表メンバーに近いスペインと対戦し、延長戦にもつれ込む激闘を演じたが及ばず。1点差の敗戦だったものの大きな差を見せつけられた。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部/JMPA代表撮影)

 東京五輪の男子サッカーで、日本は3度目のベスト4進出を果たしながらメダルには届かなかった。ただし銅メダルを獲得した1968年メキシコ五輪との違いは、世界の中での現在地を知る大きな手がかりを得られたことだ。

 53年前の五輪は、まだアマチュアの祭典で、プロがない東欧はフル代表を送り込んでいた。日本は準決勝でハンガリーに0-5で大敗しているが「今なら相手にはレアル・マドリーのレギュラーでプレーするレベルの選手たちがいた」と、日本サッカーの父と呼ばれたデットマル・クラマー氏は証言している。一方で当時の日本代表は、毎年欧州へ長期遠征を繰り返してはプロのクラブチームの胸を借りていたので、五輪で3位になっても「まだ上には上がある」ことを十分に理解していた。反面ワールドカップへの出場経験はなく、世界の頂きの高さは想像もつかなかった。

 それに対し今回の東京五輪は、1年開催が遅れて年齢制限が24歳以下になったこともあり、EUROへの参加メンバーが6人も加わったスペインを筆頭に、日本やメキシコなどはフル代表相当のチームで出場することになった。未知数だった五輪のレベルは予想以上に高まり、おかげで金メダルは遠退いたが、逆に欧州勢とは試合さえ組めない状況を考えれば、ワールドカップへの貴重な試金石となった。
 
 スペインはEUROでも最高級の質を備え、日本が目指す道を先行しているチームだ。今後はワールドカップを睨み、さらに代謝が進む可能性を考えれば、今回の五輪チームもコンディション面は差し引いてもフル代表に肉薄する力を備えていた。つまり日本がカタールでベスト8以上を目指すなら、大きな地の利や準備段階での優位性を考えれば、せめて乗り越えていく可能性くらいは示唆しておきたかった。

 実際スペインの決勝点が生まれたのは、延長戦の終了間際なので惜敗と捉えることも出来る。例えば日本は1996年アトランタ五輪でブラジルを下したわけだが、この時よりは見上げる対戦相手との差は、はるかに縮まっている。そもそも対戦したのが準決勝だから、さすがにスペインも真剣モードで、25年前にジャイアントキリングの餌食となったブラジルのザガロ監督とは異なり、しっかりと日本を分析し6枚の警告を受けながらもなりふり構わず勝ち切った。

 しかし試合は61%のポゼッションが物語るように、終始スペインが主導権を握り日本の倍の18本のシュートを放ち、うち6本(日本は1本)を枠内へ飛ばした。スペインは5度以上の決定機を築いたが、日本は明らかなビッグチャンスは創出できなかった。ひとりがスペースを作るために動けば、すかさず次の選手がそこへ入り込み、狭いスペースでボールを受けた選手がダイレクトで繋ぐ。こうした連動の加速や精度でも、スペインには一日の長があった。
 

次ページ個々の欧州での経験を武器に、共通理解を深めてハードワークで踏みこたえているのが実状

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