驚くほど冷静で大胆。GK谷晃生は紛れもなく大会を通してのヒーローだった【東京五輪】

2021年08月08日 浅田真樹

「あんなキーパーがいてくれたら怖いものはない」(久保)

銅メダルをかけたメキシコとの3位決定戦は痛恨の3失点。だが、大会を通じて再三に渡る好守を見せた谷は、紛れもなくヒーローだった。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部/JMPA代表撮影)

 ヒーローになるチャンスだ――。

 チームメイトの言葉に背中を押され、谷晃生はゴールマウスに立った。ニュージーランドとの準々決勝、スコアレスのまま120分間が経過した試合は、PK決着に持ち込まれていた。ここまで来ると、勝負はどちらに転ぶかわからない。

 その土壇場でチームを救ったのが、谷だった。ニュージーランドの2人目のキックをきれいにセーブ。すると、その気迫に気圧されたか、続く相手3人目のキックは枠を反れていった。

 久保建英が振り返る。

「僕の勘違いじゃなければ、谷選手は途中から笑顔を見せていたし、そのくらい良い緊張感、プラス自信を持ってPKに入っていたと思う。あんなキーパーがいてくれたら怖いものはない」

 谷自身、世界大会でのPK戦には期するものがあった。さかのぼること4年、17年U-17ワールドカップに日本の正GKとして出場。しかし、ラウンド・オブ16のイングランド戦で悔しいPK戦負けを味わっていた。

「ようやく挽回するチャンスが来た」

 息がつまるような場面にも、自然と気持ちは前を向いていた。相手キッカーと向かい合っても、驚くほど冷静、かつ大胆だった。
 
「最後までライン上に足を残して、自分の直感を信じて全力で飛ぼう、と。タイミングもバッチリだったし、読みが当たったなという感じでした」

 地元開催のオリンピックで堂々たるプレーを見せた谷だが、必ずしもこのチームの正GKとして有力視されてきたわけではなかった。潮目が変わったのは昨年。移籍した湘南ベルマーレでJ1デビューを果たし、定位置を掴むと、みるみるうちに力をつけていった。

 今大会でも、軽やかなバックステップでハイボールを処理し、1対1のピンチにも素早い飛び出しでシュートを防ぎ、再三チームを救った。彼の好守がなければ、準決勝スペインとの激闘も早々に勝負が決していたかもしれない。

 準々決勝だけでは決してない。紛れもなく谷は、大会を通してのヒーローだった。

取材・文●浅田真樹(フリーライター)

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