「宇佐美の充実ぶりはドイツでも注目の的」スカウト担当・リティが語る宇佐美の進化と推奨する移籍先

2015年06月10日 田邊雅之

ブンデスリーガ初挑戦は困難が容易に予想できた。

開催中のU-20ワールドカップも視察するリティ。精力的に世界各地に足を運ぶ。(C) Getty Images

 現在ヴォルフスブルクのスカウト部長を務めるピエール・リトバルスキー氏、通称リティは、日本と欧州を頻繁に行き来しては移籍市場における日本人選手の動きに目を光らせている。
 
 とりわけドイツ時代からJリーグで戦う現在まで、宇佐美貴史のプレーには熱視線を送ってきた。そのリティに、この若きアタッカーの進化の要因と欧州再挑戦のクラブ選びについて訊いた。
※ 『サッカーダイジェスト』2015年5月28日号より転載

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 宇佐美貴史がブンデスリーガにやって来た時、私は非常に嬉しく感じたのを覚えている。ドリブルが得意な彼は、現役時代の自分に少し似たところがあるからだ。事実、G大阪でデビューした頃から、私は彼のプレーに注目していた。
 
 ただし同時に、険しい道が待つことも容易に予想できた。バイエルンでレギュラーの座を確保するのは容易な作業ではない。ましてやドリブラーと呼ばれる選手は、コンスタントに試合に出場し、観衆の前で納得のいくプレーをすることで自分のリズムを作っていく。芸術家のような、デリケートなメンタリティを持っていると言ってもいい。その意味でバイエルンへの移籍は、最初から危険を孕んでいた。
 
 結果、宇佐美は移籍するクラブを間違えたと揶揄されたが、それは後知恵の域を出ない。サッカー選手たるもの、バイエルンから声をかけられれば心が動いて当然だろう。
 
 説得力の乏しさは、「守備での貢献が足りなかった」、「フィジカルの弱さがネックになったのではないか」といった批判についても、指摘できる。この種の意見はホッフェンハイムでも不振を託ったために強まったが、まず設問自体が正しくない。
 
 宇佐美のような選手は、ゴールに絡んだか否かが、評価の絶対的な基準とされるべきだ。プレーに注文をつけるのなら、守備云々ではなく、攻撃の局面で決定的な仕事ができなかったと指摘するほうがはるかに建設的だ。
 
 とはいえ、ホッフェンハイム時代の宇佐美には同情すべき点も多い。おそらく「今回は絶対に失敗できない」という意識が働いていたのだろう。移籍した後の宇佐美からは、慎重にプレーしすぎている印象を受けた。これではドリブラーにとって最も重要な、自由な発想やイマジネーションが痩せていってしまう。
 
 仮にチームを率いたのが、宇佐美の性格や特徴を十分に把握している監督だったなら、状況は違っていたかもしれない。だが残念ながら、宇佐美はバイエルンでもホッフェンハイムでも、結局は良き理解者に巡り会えなかった。今振り返ってみても、欧州挑戦をするには機が熟してなかった印象を受ける。
 
 ところが宇佐美は、失意を引きずらなかった。それどころか、帰国直後から驚異的な進化を遂げている。
 
 まず顕著なのは、プレーそのもののレベルアップだ。かつての宇佐美はキレのあるドリブルを披露しても、試合を決めるプレーができないケースがあった。だが最大の武器であるドリブルはもとより、シュートの能力も、精度やバリエーションなどの点で一気に向上している。
 
 ふたつ目の進化としては、調子のばらつきがなくなった点が挙げられる。現在の宇佐美は、対戦チームやマッチアップするDFが誰であっても、パフォーマンスが安定するようになった。
 
 三つ目は戦術理解度の向上だ。帰国後は視野も広くなり、より効果的なプレーを選択できるようになった。最近のJリーグの試合で、ワンタッチの素晴らしいパスを供給するようになっているが、これはスペースを把握する能力自体が上がったことを示している。

次ページ総合的に考えればアウクスブルクやマインツのようなクラブがしっくりくる。

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