NZ戦はなぜ苦戦した? 敵陣でのプレーを増やし、自陣での切り抜け方が準決勝以降も鍵を握る【東京五輪】

2021年08月01日 清水英斗

日本代表が得意とする戦術はプレッシングだ

ニュージーランドはCBの吉田にも激しいプレスを仕掛けてきた。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部/JMPA代表撮影)

 東京五輪の男子サッカー準々決勝でニュージーランドと対戦した日本は、延長戦を含む120分を0-0で終えた後、PK戦で4-2の勝利を収め、準決勝へ進出した。

 予想通り、厳しい試合だった。苦手なタイプの格下チームと戦うほうが良いのか、得意なタイプの格上チームと戦うほうが良いのか。これは微妙なところ。

 日本代表が得意とする戦術はプレッシングだ。メキシコ戦でハイプレスが猛威を振るったように、スピードと運動量、規律のある日本代表はプレッシングにこそ大きな強みがある。特にポゼッションスタイルの相手には効き目が抜群だ。

 しかし、ロングボール戦術を得意とするニュージーランドには、ハイプレスがあまり有効ではない。プレスをかけてもボールが頭上を越え、空振りになってしまうからだ。

 ニュージーランドは3バックを敷き、最終ラインでボールを持ちやすいシステムを採用した。対する日本は[4-4-2]が基本なので、2トップでプレスに行くと、1枚足りない。かといってメキシコ戦のように、サイドハーフが数を合わせるために中盤を離れてプレスに出て行くと、ロングボールを蹴られたときにMFが置き去りにされ、薄くなった中盤でセカンドボールを拾われやすくなる。また、行ったり来たりで、体力の消耗も激しい。

 この相性の問題があり、日本はあまりハイプレスに行かなかった。おそらく、想定済みの展開だろう。高い位置でボールを奪うのは、ある程度諦めて、ミドルゾーンで構え、ミドルカウンター、ロングカウンターか、それが無理なら一旦ポゼッションして敵陣に押し込み、分厚い攻撃を続ける。そんなプランだったはず。

 しかし、面食らったとすれば、逆にニュージーランドのほうが積極的にハイプレスに来たことだ。グループステージで採用した[5-4-1]ではなく、[5-3-2](攻撃時3-1-4-2)にシステムを変えたことに、相手の狙いが表われていた。
 
 ニュージーランドは、2トップが吉田麻也と冨安健洋にプレスをかけ、2人のインサイドハーフが遠藤航と田中碧を捕まえた。中央を切って、日本のビルドアップを外回りに誘導する。そして空いた橋岡大樹や旗手怜央には、ウィングバックが前へ出て寄せるか、インサイドハーフがスライドして寄せる。酒井宏樹の欠場もあり、遠藤と田中を自由にさせなければ日本のビルドアップは詰まる、と分析したのではないか。

 実際、日本は詰まった。元々日本代表は歴代のチームを見ても、ハイプレスには滅法弱い。日本の強みはポゼッションと言われることもあるが、それは相手がリトリートして敵陣で持たせてくれる状況が前提だ。自陣に押し込まれると、むしろ押し込まれっぱなしになる。また、ハイプレスを受けてビルドアップが困難ならば、前線でキープ力のある大迫勇也に頼りたい状況だが、いない。

 日本の前提は、敵陣でプレーすることだった。特に今回の五輪代表は、敵陣に入ってからの仕掛けやコンビネーションの質が高い。久保建英や堂安律を中心に奇術師のような攻撃を見せてきた。その質を生かし、引いた相手を今ひとつ崩し切れなかった初戦の南アフリカ戦の追試として、この試合に臨んだはずだ。

 その象徴が、旗手怜央のサイドバック起用だ。旗手はDFとしての守備力は高くないので、敵陣でのプレーを想定して、スタメンに選んだ選手になる。敵陣に押し込んだとき、サイドから仕掛けの連動性を高め、引いた相手を崩す。そんな奥の手を用意した。

 ところが、ニュージーランドのハイプレスにより、逆に日本は自陣でのプレーが増えてしまった。敵陣での攻守(ハイプレス&個の仕掛け)が得意な日本が、苦手な自陣での攻守(ビルドアップ&低いブロック)を強いられた。日本のウィークポイントを突くニュージーランドの戦略は的確だった。
 

次ページニュージーランドの4バック変更がターニングポイントに

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事