酒井宏樹の累積警告は避けられなかったが… 森保ジャパンが総力戦へ向けて完了した“再確認”【東京五輪】

2021年07月29日 加部 究

【采配検証】スタメンを送り出した日本陣営の選択は、むしろ慎重だった

若いフランス相手に成熟度の違いを見せつけた日本。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部/JMPA代表撮影)

 欧州で助っ人としてプレーする選手たちと、所属クラブで重用されるJリーガーで構成される日本は、オーバーエイジ(OA)が開花前のつぼみのような集団を引率して来たフランスに成熟度の違いを見せつけた。

 アマチュアからプロ草創期の代表を含めた日本のチームは、よくこういうチームに負けた。例えば90年代末期の加茂周監督時代の日本代表は、レギュラークラスではなく若いメンバーで来日したパラグアイ代表の意欲とインテンシティに圧倒された。

 あるJリーグ・チャンピオンチームの監督は、遠征先の南米で対戦相手が若手ばかりのメンバーで臨んで来たことに激怒するが、そんなチームに敗戦を喫した。レギュラー陣を相手にするよりサブ組を苦手としたのは、まだ日本の選手たちがトッププレーヤーたちの掛け値なしの真剣勝負を経験していなかったからだ。だからあまり汗をかかずに翻弄しようとするレギュラークラスより、血気盛んで必死にアピールしようとする若手の勢いに圧倒された。
 
 フランスで戦って来た酒井宏樹が注意を喚起したのも、失うもののない「つぼみ」のポテンシャルと怖さを身をもって知っていたからだろう。

 だが東京五輪でプレーする日本の選手たちの前では、所詮つぼみはつぼみでしかなかった。もし大敵がいたとすれば、悲鳴を挙げる度に笛を吹き、演技と真実の違いを見極められないエルサルバドルのレフェリーだ。欧州基準の強度で戦い続ける日本の選手たちは、Jリーグと比べても明らかに無駄な笛の多いジャッジに悩まされている。ただしジャッジは邪魔になっていても、球際の攻防で日本がフィジカル自慢のフランスの若手を制していたのは事実だった。

 おそらくこの笛の水準が続く限り、グループリーグを抜けていくまでに主力の誰かを累積警告で欠くのは避けられないことだった。

 だが幸いにも準々決勝で対戦するのは、隣りのグループBから抜けて来るチーム。もちろん油断は大敵だが、ニュージーランド戦で否応なく酒井を休ませられると解釈すれば悪いことではない。

 スタメンを送り出した日本陣営の選択は、むしろ慎重だった。最終ラインとボランチは過去2戦を継承し、左MFには堅実な献身が光る旗手怜央を起用。メキシコ戦で縦横無尽に走り回った林大地を休ませ、上田綺世のコンディションと連携を確認した。

 プロ入り後確実に技術の精度を上げている上田は、1度だけバックパスをフランスのエース、ジニャックにプレゼントする大きなミスを犯したが、最前線で巧みに起点となりボールを引き出しゴールを演出した。故障で出遅れたストライカーを90分間チェックできたのは朗報だった。さらに前戦フル出場した久保建英を後半から休ませ、次戦欠場する酒井の代役を務める橋岡大樹を試運転し、70分過ぎからは遠藤航、堂安律、田中碧と核になる選手を次々にベンチに下げることが出来た。特にこの時点で遠藤が次戦に出場できることが確定した。
 

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