天皇杯の川崎×千葉戦で見られた珍しいシーン。バックパスをGKが“キャッチ”も話し合いの末にジャッジは…

2021年07月22日 本田健介(サッカーダイジェスト)

一時はエリア内での間接FKかと思われたが…

レフェリーに抗議した家長やL・ダミアンら。川崎の選手たちにとっても難しい判断だった。写真:塚本凜平(サッカーダイジェスト写真部)

 7月21日、天皇杯の3回戦、J1の川崎がJ2千葉を1-1のまま突入したPK戦の末に下したゲームで珍しいシーンが見られた。

 起こったのは1-1のスコアで迎えた79分。直前に川崎のFWレアンドロ・ダミアンと千葉のGK鈴木椋大がクロスボールに対して衝突。川崎陣内にボールが進んだところでゲームがストップ。

 センターサークル付近で川崎の谷口彰悟、千葉の櫻川ソロモンがレフェリーと話し合い、櫻川がバックパスすることになったが、これをGK鈴木がエリア内でキャッチしてしまったのだ。味方からのバックパスを手で扱うと、相手にエリア内での間接FKが与えられるだけに会場は騒然。一時、両チームの選手が入り乱れるシーンとなった。

 そこで川崎のキャプテン谷口が中心となってレフェリーと何やら話し合い、再度のドロップボールで再開される運びとなったが、これに川崎の家長昭博やL・ダミアンが抗議。再び、試合は中断したが、最終的に千葉のエリア内でのドロップボールとなり、川崎の大島僚太がキックインする形で鈴木へボールを渡して試合再開となった。

 ボールを受けた鈴木は後方の川崎サポーターへ向かってすぐに挨拶し、川崎サポーターからは拍手が送られた。
 川崎にとっては勝ち越しのチャンスになるシーンだっただけに、難しい判断を求められた。川崎陣営にも様々な意見があったという。試合後に鬼木達監督、谷口に恐縮ながら訊ねると、難しい胸の内を語ってくれた。

 同じような場面が訪れた際に備えて「いろいろ考えないといけないと思っています」と話すのは鬼木監督だ。

「自分の記憶では、あの場面では、キーパーもダミアンも倒れているところで、多分マイボールだったイメージです。ただ、相手のドロップボールで始まって、キーパーがキャッチしてというシーンでした。

 そのなかで、スタートがややあやふやであったり、実際に起きた現象がややあやふやだったという部分があったと思います。もちろん、こちらとしてはチャンスなので取りにいくという、選手の気持ちは当然理解できます。ただ自分のところでは、ジャッジが中途半端になっていたところもあったので、そこはスッキリ再開したいなと。相手ボールで良いという話はしました。

 もっとも、試合に負けていたり、もしあのチャンスをモノにしていたら、延長はなかったかもしれないですし、選手が勝ってくれたので、選手に感謝しています。負けていたら自分の責任で間違いないと思っていますし、自分としては難しいジャッジをしたなと感じています。また同じことが起きた場合、選手からは勝負事だという話も出たりしていましたし、そういう意味で、いろいろ考えないといけないと思います」

 また谷口も悩みながらプレーを再開させたことを明かす。

「あのシーンは、キーパーとダミアンが接触して、ジェフがクリアしたボールで、笛が鳴っていたので、ジェフボールで再開しなくてはいけないところでした。そのなかで、ダミアンも、キーパーも痛がっていましたし、ジェフボールですが、『まずはキーパーまで一回下げてから再開しましょう』という話をその場でして、周りにも伝えました。
『下げてから再開するので、取りにいかないで』と。

 ただ再開して下げたボールをキーパーが誤って取ってしまったので、正直、難しいところではありました。ルールとしては間接FKにしなくてはいけない状況で、僕らにとっては得点のチャンスでありました。勝負事なので、そこは厳しくというか、ルールに則るべきなんじゃないかという想いも、もちろんありましたし、中にそう言っている選手もいました。

 でも、状況を踏まえて、ダミアンに加えてキーパーも痛がっていて、再開した時に誤って取ってしまった。監督を含めてどうしますかという話をしていましたし、レフェリー、ジェフのキャプテンとも話しました。

 うーん……、正直、判断は難しかったです。勝負にこだわるならそこは隙を見せたくなかったですし、どんな形であってもルールはルールという想いもありながらも、確かに意図が全体に伝わってなかったのかなと。もし負けていたら後悔していたかもしれないですが、それを含めて勝ち切りたかったというところもあります。だからやはり非常に難しいかったです。ルールはルールなので、あまり美談にするのも、おかしいなとも思いますし、正々堂々戦いたかったという気持ちもあります」

 川崎としては相手の事情も考慮しつつ、スッキリした形での勝利を目指した一方、厳しい試合が続くなか、どんな些細なことにもこだわり、チャンスをモノにする意識も今後は必要なのかもしれない。

 川崎と千葉の一戦は、互いの意地がぶつかる好ゲームとなった。ただ、前半に右サイドからクロスを上げ、味方の見木友哉と川崎の山根視来が競ったボールがゴールに吸い込まれたが、ノーゴールの判定になったシーンに関しては、千葉の安田理大が「疑問が残りました」と語るように、試合の流れに影響を与えるジャッジがいくつかあったのも事実。

 様々な面で考えさせられるゲームでもあった。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)

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