【識者コラム】スペイン戦で見えた金メダル候補の壁の高さ。2戦目以降は全て息苦しい夜になりそうだ

2021年07月18日 加部 究

勢い良く相手のDFに圧力をかけていったが、あまり効果的でないことに気づくのにそれほど時間はかからなかった

A代表でも活躍するオヤルサバルも途中出場で違いを見せた。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部/JMPA代表撮影)

 これほど日本が希望通りに選手を集められたのは開催国特権の賜物だと思っていたが、総体的に欧州のクラブも完全に反旗を翻すわけではなく一部に寛大さを示したことで、東京五輪は予想以上にハイレベルな争いになりそうだ。特にスペインは、EUROを戦ったばかりの選手を6人も招集。従来の常識を覆す無茶な人選を敢行した。さすがに日本戦は後半目に見えてペースダウンしたが、もしここからコンディションとモチベーションが整っていくようなら間違いなく優勝候補の筆頭になる。特に金メダルに近いところまで勝ち上がって来た場合は、突出した底力を見せつける可能性もある。

 一方日本も、スペインに圧倒的にゲームを支配されても一度はリードを奪えたわけだから、この夜と同じようにタイミング良く堂安律のスーパーショットが飛び出すような幸運に恵まれれば、金メダルの可能性も否定はできない。ただしほんの少しでも集中を欠けば、逆にお祭りムードが南アフリカ戦だけで消沈してしまう危険性も考えておくべきかもしれない。

 やはり個人戦術を活用しスピーディで精度の高いチーム戦術を実現していく質を比べれば、スペインと日本には少なからずギャップがある。日本も何人かは同等に近い技術や判断を備えているが、足並みの揃い方の水準が異なる。だからスペインは、ほぼぶっつけ本番で、途中から何人選手が代わっても良質なパフォーマンスを維持できる。スペースを作るために動く選手がいれば、それを活かすために移動する選手がいて、こうした連動を的確に捉えたパスがパズルのように高速で繋がっていく。それを繰り返すうちにゴール前にはフリーの選手が生まれており、あとはコンディションが上がれば、その分だけ決定機やゴールの数も増えていくはずだ。
 
 逆に日本は、今まで戦ってきた相手とは質が違い過ぎて、思うような守備から攻撃への転換が出来なかった。キックオフとともに久保建英を筆頭に勢い良く相手のDFに圧力をかけていったが、あまり効果的でないことに気づくのにそれほど時間はかからなかった。ホンジュラスやジャマイカ、あるいはフル代表が相手にしてきたアジアの相手なら、遠藤航を中心とするボランチ周辺で回収し再度攻撃を仕掛けることが出来た。しかしスペインは圧力をかけてもミスなく回避するばかりか、一気にアタッキングゾーンまで運んでしまうので、どうしても日本は耐える時間ばかりが長引いた。

 スペインも後半は疲労の影響が色濃く出たが、日本も大幅にメンバーを代えてボールの落ち着きどころが田中碧くらいになってしまったので、結局受け身一辺倒になり必然の同点弾を許した。この状態なら前田大然をサイドではなくワントップに残さなければ、ボールを引き出す術も消えてカウンターの脅威も与えられない。さすがに65分以降のメンバーで本番を戦うことはないはずなので、これほど建て直し不能には陥らないだろうが、リードした終盤に相手が圧力をかけて来た時の締め方には一考の余地がある。数的不利でも切り返す手段としては、鋭いターンからキラーパスを出せる三好康児と、広範な守備も出来る前田の組み合わせが合理的だ。

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次ページ地の利が大きな日本はそれでも辛うじて優勝候補の片隅には止まっている

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