【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の二十一「日本らしさという罠」

2015年06月04日 小宮良之

スペイン人は、スペインという国の型を作ろうとはしていない。

世界最高峰リーグを誇るスペイン人は、その町やクラブにあった型を作る。例えば空中戦を得意とするビルバオのトップチームにおいては、スターティングメンバーの平均が185㌢以上ということも。 (C)Getty Images

 先日、元日本代表監督で現在は愛媛の今治FCのオーナーを務める岡田武史氏が、TVのスポーツニュースでこんな話をされていた。
 
「あるスペイン人から『それで(今治の)戦い方の型は?』と訊かれて驚いた。日本では型にはめてしまうのは良しとされないけど、あのスペインにさえ型があるんだと。これからは、日本らしい型を作っていかないといけないと感じましたね」
 
 岡田氏の人の意見を受け入れる度量と着想は、ワールドカップで日本代表を二度率いただけのことはあるだろう。しかし、ひとつ誤解がある。
 
 世界最高峰リーグを誇るスペイン人は、スペインという国の型やスタイルを作ろうとはしていないし、これまでもしてこなかった。
 
 彼らが作った型は、その町の、そのクラブに合ったそれである。決して、国単位ではない。FCバルセロナはバルサのスタイルを持ち、レアル・マドリーはマドリーのスタイルを持った。アスレティック・ビルバオも、セビージャも、デポルティボ・ラコルーニャも、クラブ主導で動いている。
 
 スペインは複合民族国家で、例えばバルサのあるカタルーニャやビルバオのあるバスクは、民族も言語も文化習慣も異なる。風貌や骨格など肉体構造からして大きく違う。その個性がフットボールスタイルとリンクしている。
 
 例を挙げると、バスクのクラブはクロスからの空中戦を得意とするチームが多いが、それは大柄な体躯の持ち主が多いからだ。ビルバオのトップチームにおいては、スターティングメンバーの平均が185㌢以上ということもありうる。
 
 日本は、スペインのように複合民族国家というわけではない。
 
 しかし日本も地方色は強く、それは強い方言だったり、食生活だったりでも歴然だろう。広がる光景や肌で感じる気候によって、思考回路も違ったものになる。気が強かったり、忍耐強かったり、素直だったり、考えすぎだったり、地方色は出る。石川県と鹿児島県の選手が、まったく同じフットボールスタイルを落とし込まれても合うはずがない。

次ページ型にはまった一国のスタイルで挑んでも、世界では通用しない。

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