イタリアはなぜ“悲劇”から立ち直り、欧州制覇を果たせたのか? 番記者が明かす舞台裏【現地発】

2021年07月15日 マルコ・パソット

伝統的なサッカーから変貌

チーム一丸となって栄冠を勝ち取ったイタリア。(C)Getty Images

 コロナ禍の影響により1年遅れで開催されたEURO2020は、イタリアの53年ぶり2度目の戴冠で幕を閉じた。ロシア・ワールドカップの出場を逃し、失意に沈んでいたアッズーリをロベルト・マンチーニ監督はいかにして立て直し、欧州制覇に導いたのか。有力紙『Gazzetta dello Sport』でイタリア代表番を務め、大会中もチームに張り付いていたマルコ・パソット記者が、その舞台裏を明かす――。

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「こんなに楽しいことってさ、なかなかないよ」

 EURO2020の期間中、ロレンツォ・インシーニェが何度も何度も言っていた台詞だ。これこそがイタリアをヨーロッパの頂点にまで導いた、強さの秘密であると私は思う。

 今回のイタリアを象徴する言葉はいくつもあるが、なかでも一番のキーワードは「楽しむこと」だ。マンチーニ監督は決勝前夜に、もう一度選手たちに向ってそれを繰り返した。

「ここまで我々は楽しんでプレーしてきた。最後にもう一度最高の楽しみをしよう。なにせ、あと残っているのは決勝だけだ」

 この「楽しむこと」は、マンチーニが3年前にアッズーリの指揮を執ることになった時からウェンブリーの夜まで、変わらずに貫いてきたスピリットだ。代表監督に就任した際、彼はまず初めに選手に向かってこう言った。

「知っているか? 私はEUROとワールドカップで優勝したいんだ」

 誰もが、「こいつ大丈夫か」という顔をして彼を見た。それも仕方ないだろう。イタリアはロシアW杯行きの切符を逃したばかりだったのだから。それはイタリア・サッカー史上最大の悲劇と言われていた。

 しかし、選手たちはすぐに、崩壊からの再生を約束する監督を信じるようになった。そして3年後、マンチーニの言葉は正しかったことが証明された。彼のアプローチが間違っていなかったことも。

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 それまでイタリア代表には、どこか重苦しい空気がいつも漂っていた。国中の期待からくる重圧とでも言おうか。しかし、マンチーニはこうしたかび臭い空気を一掃し、どこかお気楽なメンタリティをチームにもたらした。それを試みた代表監督はこれまで一人もいなかった。

 マンチーニの「気軽にいこう」という精神は選手たちにも伝染し、その結果、これまでのステレオタイプなイタリアとは正反対なチームが生まれた。今までにないアプローチ、今までにない視点、それはメンタル面にだけでなく戦術にも表れていった。

 積極的でアイデアにあふれ、ご都合主義や机上の空論ではないサッカー。守備に回った時でも攻撃的で、前に前に、高い位置でプレッシャーをかけ続けた。イタリアは伝統的に、強固に守りながら、一発のチャンスをうかがうカウンターのチームだが、この指揮官はそれを変貌させたのだ。

 もちろんそれを実現するには26人のメンバーを、慎重に選ぶ必要があった。彼が求めた要素は数多くあるが、とりわけ重視したのは2つ、テクニックとユーティリティ性だ。その資質を備えるならば、所属クラブで主力として活躍していなくとも構わなかった。

 例えば決勝にも出場したエメルソンとフェデリコ・ベルナルデスキは、チェルシーとユベントスでは完全に控えの選手だ。しかし、マンチーニは彼らのプレーの哲学を信じ、クラブでの出場機会が少なくても選出するのを躊躇しなかった。
 

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