世界を知る元ビッグクラブ指導者が日本の高校を率いたら… 「ネガティブな言葉が一切ない」指導とは?

2021年06月19日 加部 究

相生学院高校サッカー部監督 ジェリー・ペイトン氏インタビュー【後編】

チェフ(中央)やエミリアーノ・マルチネス(右)といった選手の指導にも携わったペイトン氏は現在、兵庫・淡路島の相生学院高サッカー部の指揮を執っている。(C) Getty Images

 ジェリー・ペイトン――元アイルランド代表でユーロやワールドカップに出場し、GKコーチとしてもアーセン・ヴェンゲル指揮下のアーセナルで15年間もGKコーチを務めた。そんな人物が現在、日本の高体連チームの指揮を執っている。いったい彼は、高校生にどのような指導をしているのだろうか。

取材・文●加部 究(スポーツライター)

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 相生学院サッカー部は、ジェリー・ペイトンを監督に迎えて数日後に練習試合を行なった。対戦相手は関西社会人の強豪チーム。さすがにパワーの差は歴然として1本目は、1-3でリードを奪われた。

 ところがペイトンは言った。
「全然悪い試合じゃない。これは勝てるよ」

 2本目が始まる前に、いくつかの修正ポイントを告げて選手を送り出すと、試合展開は一変した。2点差を跳ね返し3本目には逆転。最後は相手も意地を見せて4-4で分けた。

 常に隣で寄り添う上船利徳総監督が語る。
「とにかく問題解決能力が並外れています。GKとして、ずっと最後尾からハイレベルのゲームを見てきたせいか、見えている光景の次元が違う。毎試合ハーフタイムに助言をしてポジションや動きを修正すると、チームがガラッと変わってしまいます」

 ペイトン監督が着任以来、毎日が驚きの連続だという。
「相生学院には、僕と前任のゼムノビッチ監督が話し合って構築したプレーモデルがありました。それを尊重した上で、様々な提案をしてくれます。また実際にトレーニングに入ってからも、なぜ上手くいかないのかの分析と、どうしたら改善できるかの助言が、シンプルで実に的を射ている」(上船総監督)

 例えば、短期間で目に見えて向上したのが決定力だ。ペイトン監督は言った。
「シュートは60~70%の力でコースを狙うんだ。強いシュートは防げるが、トップコーナーに行けば誰も止められない」
「スルーパスで一番大切なのは質だ。ここに通せばGKは出られない」
 
 世界有数の経験値や指導歴を持つ監督の言葉だけに、ケタ違いの説得力を持っている。
「しかもネガティブな言葉が一切なく、いつも"We can do it!"を繰り返しています」

 現在アストン・ヴィラで活躍しているエミリアーノ・マルティネスも、最初は筋肉が出来ていなくてパワー不足で出場機会を得られず苦悩した。若い選手がどんな成長曲線を描いていくのか。それを数限りなく見て来たから、どんなことを積み重ねていけばどこへ辿り着くかを熟知している。

「だから今出来なくても、まったく焦る必要はない。諦めずに続けていけば必ず伸びる。大丈夫、25歳の時には完璧になれる」

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