連載|熊崎敬【蹴球日本を考える】鹿島が勝負へのしたたかさを失ってしまったのはなぜか?

2015年05月06日 熊崎敬

「他国には貧富の差があり、今日を生き抜くことを自分で考えなければならない」と指揮官。

トニーニョ・セレーゾ監督は、日本人選手の球際の弱さを日本社会の在り方に見出そうとしている。写真:徳原隆元

 鹿島がACLグループステージで姿を消した。
 勝てば2位通過が決まるFCソウルとの最終節、鹿島は赤﨑の美しいミドルで8分に先制する。このまま1-0で試合を終えれば、勝ち抜きが決まる。鹿島は優位に立った。
 
 リードを守る、または引き分けオーケーといった状況での試合運びが、鹿島は滅法上手かった。ビスマルクなどは「勝ち試合は、こうやって作るんですよ」という手本を日本人選手に示していた。
 
 だが、その伝統も消えかけている。チームの主軸を担う若手たちは自分のプレーに手一杯で、重鎮の小笠原も試合を仕切るだけの存在感はなかった。
 
 試合をコントロールできない鹿島はソウルの反撃に遭い、2-3の逆転負けを喫する。1、2点目がCKからのヘッド、3点目は終盤の激しい叩き合いの中でゴール前が混乱、致命的なシュートを決められた。
 
 どれも鹿島らしくない失点だった。
 かつての鹿島はセットプレーに強く、密集の中で敵のマークを攪乱し、巧妙にゴールを決めていた。だが、最近はセットプレーに脆い。
 
 1点目は山本が強引に抑え込もうとした敵にマークを振りほどかれ、フリーでヘッドを決められた。2点目はショートコーナーでタイミングと角度を変えられた瞬間、昌子がマークを見失った。
 
 3点目は一度、ボールを拾った小笠原が軽いプレーで奪い返されてしまう。小笠原を含めた3人が敵に追いすがったが、シュートには誰も身を投げ出そうとしなかった。
 
 駆け引きで後手に回り、同じミスを繰り返す。加えて勝負どころで粘り切れない。鹿島はもう、かつての勝負強さを失ってしまった。
 
 試合後の会見に臨んだセレーゾ監督は、セットプレーでの弱さを敗因に挙げた。
「セットプレーでは相手と接触しなければいけない。そこを嫌がったのか、怖がったのかは分からないが、ACLでもJリーグでもセットプレーで失点している。日本代表のハリルホジッチ監督は、日本人はコンタクトプレーを嫌がると話したが、それは数年前から分かっていたこと。プロになる高卒の18歳、大卒の22歳の多くはヘディングの技術を持っていない」
 
 だが、これはあくまでも一例に過ぎない。指揮官が言いたいのは次の部分だ。
「日本は道徳が守られた素晴らしい国。他国には貧富の差があり、今日を生き抜くことを自分で考えなければならない。勝つか負けるかの争いが生活の中にある。勝ち負けの重みを生活の中で知る人と、プロになってから知る人では8年から10年の差ができてしまう。日本は争いをしない文化、話し合いで物事を決めようとする。ケンカをしないから、接触にも弱いんだ」

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