「誤審も含めサッカーという時代を生きてきた私は…」。原副理事長が語る“VAR導入の是非”

2021年04月12日 白鳥和洋(サッカーダイジェスト)

J2、J3に比べてJ1のリスタートは審判もやりやすそう

VAR導入の是非について言及してくれた原副理事長。写真:Jリーグ

 コロナ禍という未曽有の事態に直面し、Jリーグの価値が改めて問われている昨今。村井チェアマンや原副理事長の声をより多くのサッカーファンに伝えるべく、スタートさせた新連載だ。名付けて「J’sリーダー理論」。おふたりが交互に綴るコラム形式企画の第2回は、原副理事長に「VAR導入の是非」について言及してもらった(サッカーダイジェスト4月22日号に掲載された内容を加筆したもの)。

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 VAR(ビデオアシスタントレフェリー)の導入については、当然ながら良い点も悪い点もあります。そもそも、反則か否かというグレーゾーンの部分は主審の判断に従うのが、サッカーの精神とも言えました。しかし、試合展開がよりスピーディになった昨今は明らかなファウルを見逃すケースが増えてきて、VARの必要性も叫ばれるようになりました。

 実際、2018年のワールドカップでVARが正式採用され、この頃からJリーグの実行委員会でも「導入すべきじゃないか」との声が出ました。ただ、いきなりJ3リーグまで網羅するのは無理なので、「まずはJ1リーグで」という流れになった経緯があります。

 20年シーズンからの導入を目指し、皆さんの協力もあってその開幕節で実践するに至りました。しかし、ご存知のとおり、コロナ禍の影響で2節以降は延期。4か月の中断を挟むことになり、その時点でVARを一旦断念しました。残り期間でJ1、J2、J3の全試合を消化するスケジュールを組んだ時、VARまで考えると審判員の数が物理的に足りない事実が明らかになったからです。VARはお金も人もかかるシステムで、そう簡単に運営できるものではありません。
 
 一方、今季からVARを本格導入して改めて分かったメリットもあります。例えばPKか否か、得点に関わる場面でオフサイドか否か、微妙な事象があった場合、VARは当然ながら大きな助けになります。正直、いくつもプレーが重なると、なかなか主審の目だけでは追いきれない。ミスジャッジを防ぐ意味で、VARの存在価値は間違いなくあります。

 もちろん確認作業に時間がかかる、ゴールを決めてもすぐに喜べないなどデメリットはありますが、一方でセットプレーの際の余計ないざこざがなくなっている気がします。ゴール前でユニホームをグイッと引っ張ったりするとVARでPKを取られてしまうという心理が働くからか、J2、J3に比べてJ1のリスタートは審判もやりやすそうです。

 私が懸念しているのは、J2、J3、ルヴァンカップのグループステージにVARを導入しなかったことで生じるズレ。大人、子どもに関係なくどんな試合でも同じルールでやれれば理想。しかし、実際はJ1にだけVARが導入されていて、そのあたりで混乱がなければいいと思っています。

 ただ、難しいですよね。先ほども言ったとおり、VARはお金も人もかかる。稼働させるにはカメラも一定の台数が必要で、オペレーションルームも作らないといけない。試合ごとにオペレーションルームを設けず、一括監視できるVAR専用スタジオを作ればコストを抑えることはできます。ただ、その施設で停電などのトラブルが起きると、それこそパニック。全試合に影響を及ぼすわけで、リスキーな側面もあります。

 だから、今はたとえお金がかかっても、より堅実なやり方を選んでいます。もっとも、VARに大金を費やすべきなのか、という問題はあります。クラブに分配すべきとか、育成費に充てるべきとか、私もそう思うことはあります。ただ、いろんな国々が導入しはじめている現状を考えると、VARは無視できません。日本人の審判もVARを理解しないと、FIFAやAFC主催の大会で笛を吹けなくなってしまう可能性があります。ただ、今後どうなるかは誰にも分かりません。今は世界的にVAR推奨という流れになっていますが、いずれAIで簡単にファウルを見分けられる方法も出てくるかもしれないです。見守る以外にありません。
 

次ページとりあえず今季J1でVARをやってみて、どうなるか。

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