「リーダーが正しく牽引できれば、Jリーグもいずれ世界ナンバーワンに」【村井チェアマンのJ'sリーダー理論】

2021年03月29日 白鳥和洋(サッカーダイジェスト)

「晒す行為」と「半径10メートル」

村井チェアマンが組織を束ねるうえで重視しているのが「晒す行為」と「半径10メートル」という考え方だ。写真:Jリーグ

 コロナ禍という未曽有の事態に直面し、Jリーグの価値が改めて問われている昨今。村井チェアマンや原副理事長の声をより多くのサッカーファンに伝えるべく、スタートさせた新連載だ。名付けて「J’sリーダー理論」。おふたりが交互に綴るコラム形式企画の第1回は、村井チェアマンによる「リーダーシップ論」をお届けする(サッカーダイジェスト4月8日号に掲載された内容を加筆したもの)。

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 正直、私は典型的なリーダータイプではありません。例えば川淵三郎さんのように全身から「リーダー」という湯気が立っている人もいますよね。そういう方は強烈なリーダーシップがあって、将来を見極める力、誰もやらないことをやる勇気も持ち合わせています。反して、私は大したオーラもなければ、アスリートとしての実績もあるわけではありません。だから、そんな私がリーダー論を語るのはおこがましいし、真のリーダーの方々に申し訳ない気持ちもあります。ですが一方で、私だから皆さんに伝えられる何かがあるとも考えています。

 Jリーグの社内でいつも言っているのは「魚と組織は天日に晒すと日持ちが良くなる」ということです。情報も経験もあまり持ち合わせていない私は、とにかく徹底して自分自身を天日に晒すスタンスを心掛けています。会見で情報を晒して叩かれたり、突っ込まれたりする時はもちろんありますが、そこでのやり取りの中に社会の関心事や問題の本質が隠されています。晒して情報をもらう、晒して正しい方向に導いてもらう。そう考える私にとって、晒す行為は重要な意味を持ちます。

 もうひとつ重要なキーワードが、半径10メートル。文字通り、半径10メートルを大事にするということです。私には日本代表歴も監督歴もありませんが、現場レベルの知識は原博実さん(現Jリーグ副理事長)が持ち合わせています。同様に、ファジアーノ岡山の社長を務めた木村正明さん(現Jリーグ専務理事)が傍にいてくれれば、クラブ経営のノウハウを教えてもらえます。他にもJリーグを知り尽くす窪田慎二さん(現Jリーグ理事)、海外サッカーに精通している佐伯夕利子さん(現Jリーグ理事)のようなエキスパートがいてくれるおかげで、いろんな情報をインプットできます。

 自分ひとりでは無理なことも、半径10メートルにそういう人たちがいてくれればチームで解決できます。最悪なのは、ひとりでやれると思い込んでズルズルといってしまうケース。そうならないためにも、「晒す」、「半径10メートル」という考え方は大事なのです。

 ただ、Jリーグのチェアマンとして一番大切にしているのは、誰よりもサッカーの可能性を信じること。そこに不安を感じているようでは話になりません。四六時中サッカーと向き合える現状は、ある意味、幸せと感じています。サッカー、ひいてはスポーツの可能性を信じて突き進むのが私の使命ではないでしょうか。
 
 もちろんコロナ禍では大変なことも多いです。過去のケーススタディやノウハウがまるで通用せず、ゼロベースから考える作業は困難を極めます。とはいえ、こういう時こそ私なのかなと。つまり、経験が浅い私のほうがフラットなスタンスで機能的な判断ができると、そう思う部分もあるわけです。いずれにしても、コロナ禍では「私がやらなくてどうする?」と自分自身を奮い立たせながら業務をこなしています。

 コロナ禍と言えば、昨季の4か月中断は苦渋の決断でした。キッチンカーで働いている方はどうなるのか、スタジアムでボランティアを生き甲斐にしている方は大丈夫なのか、選手は心身両面で問題ないのかなど、いろんなことを考えました。

 ただ、その決断が間違っていたとは思いません。チェアマン就任以降、すべての判断の軸としてきたJリーグの理念のひとつには「国民の心身の健全な発達への寄与」という一文がありますので、国民の健康を危険に晒してまでリーグ戦を進める考えはありませんでした。その結論に至るまで自問自答を繰り返して、それこそ悶絶するような感覚に陥った時もありました。でも、Jリーグの理念に沿っているなら中断していいんだと、最終的にはそう決断しました。
 

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