リーガで12発!地道な鍛錬でソシエダの主砲に成長した“イブラの再来”【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2021年03月18日 小宮良之

2月のアラベス戦でハットトリック

192センチの長身ながら、しなやかでスピードもあるイサク。(C)Getty Images

 2019-20シーズン、レアル・ソシエダの全体練習後、目を引く光景があった。居残り練習。スウェーデン人FWアレクサンダー・イサクが、単純なクロスボールをゴールに叩き込むュート練習を粛々と行なっていた。斜め、横と様々な角度から、いろんな球種を体のどこかに合わせ、ネットを揺らす。単純な練習だったが、集中する気配がみなぎっていた。

「Bien」(いいぞ)

 コーチが短い言葉で、シュートをほめた。

 イサクの表情は変わらなかった。一本一本のクロスに対して準備し、丹念にボールを叩いた。その日の練習で、何かを体得することなどないのだろう。しかし精度を高めるには、練習を積み上げるしかない。その厚みが、決定力につながることを信じて。

 当時、イサクは「ズラタン・イブラヒモビッチの再来」という鳴り物入りでボルシア・ドルトムントから入団したが、ポジションを奪えていなかった。謙虚にシュート練習に励む。それだけが彼の道だったのだろう。新しい土地に慣れ、プレーのリズムを覚えると、スーパーサブで出場機会を得るようになった。そこで、求められるゴールを決めた。

 そのポジションは、与えられたわけではない。自ら、勝ち取ったのだ。

【動画】久保建英も出場したヘタフェ戦でイサクが決めたゴール
 そして今シーズン、イサクは完全に先発の座を奪った。攻撃戦術を掲げるレアル・ソシエダで、ストライカーとして存在価値を示している。遂に、レギュラーだったブラジル人FWウィリアン・ジョゼを移籍に追った(ウォルバーハンプトンへ)。

 今年2月のアラベス戦、イサクはハットトリックを記録している。1点目は、中盤やや右からミケル・メリーノが左足で入れたボールに対し、ラインと駆け引きし、裏に出て右足ボレーを叩き込んだ。2点目は、ダビド・シルバからのスルーパスをGKの鼻先で合わせた。3点目は左からのミケル・オジャルサバルのクロスにディフェンスの背後から飛び込み、ゴールネットを揺らしている。

 どれも反復練習で、何度も決めていたシュートの形に似ていた。

 ストライカーは、剛胆さが求められる。ゴールを外したミスを悔やまず、ゴールを決める欲求だけで動ける、明朗な性格が向いている。しかし、反復練習のような地道さは欠かせない。センスだけで得点が取れるのは、ユース年代までの話。最後は、練習の質と量の差が出るのだ。

 現在、イサクは12ゴールを記録し、リーガの得点ランキングで6位につけている。移籍金は650万ユーロ(約8億1250万円)だったが、その市場価値はすでに3倍以上に跳ね上がったと言われる。今シーズン終了後、ボルシア・ドルトムントは3000万ユーロ(約37億5000万円)での買い取りオプションを行使できるが……。

 イサクは、ゴールによって自らの道を切り開くことになるだろう。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。
 

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