【FC東京】シュートはわずか1本。それでも武藤が「ありがとう」と感謝される理由とは?

2015年04月26日 白鳥和洋(サッカーダイジェスト)

味方を窒息させなかった武藤の「ハードワーク」。

武藤が前線でボールをしっかりとキープし、“味方に呼吸させる時間”を与えたことで、中盤も最終ラインも最後まで高い集中を保ち、ガス欠にならなかった。 (C)J.LEAGUE PHOTOS

 両膝にアイシング……。試合後のミックスゾーンに、武藤嘉紀は見るからに痛々しい姿で現われた。前節の広島戦後に右膝が炎症を起こしてしまった本人曰く、「(山形戦は)フルタイム出場する予定ではなかった」。

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 確かに、ベストには程遠いコンディションだった。馬力あるドリブルも、マーカーなどお構いなしにシュートへ持ち込む強引さもこの日は影を潜め、どこか大人しかった。それでも悔やんでいる様子はなく、「ゴールやアシストはなかったですが、チームが勝てたことは良かった」と、むしろ清々しい表情で言った。
 
 シュートはわずかに1本。それも、CBの西河翔吾に完璧にブロックされてGKの山岸範宏に届いていない。リーグ戦での武藤の3試合連続ゴールを期待していたサポーターには、彼のパフォーマンスは不出来に映ったかもしれない。ただ――。
 
 本人も「チームの2点目を決められそうな場面で、それをできなかったのが課題」とはっきりと反省を口にしていたが、コンディションが悪いなりに自分なりのベストを尽くしていた。
 
「前線でもっと身体を張れれば良かったですが、(自分の)状態が状態だったので……。チームのために守備したり、ハードワークすることをまずは考えてプレーしました」
 
 そのハードワークのひとつが、前線でのキープだった。
 
ホームの山形が雪崩のようなハイプレスを仕掛けるなか、FC東京は立ち上がりからボールを上手くつなげずにいた。横パスが少しでもズレれば、相手にかっさらわれてカウンターを食らう――。
 
それを恐れてか、クリアのほとんどがロングボール。いわばポゼッションを放棄したFC東京は受けて立つ格好になりかけたものの、実際にそうならなかった背景には武藤の気の利いた振る舞いがある。
 
彼が孤立無援の状態でも前線でボールをしっかりとキープし、"味方に呼吸させる時間"を与えたからこそ、中盤も最終ラインも最後まで高い集中を保ち、ガス欠にならなかったのだ。
 
「試合が終わった後、DF陣から『こういう戦いのなかであれだけボールをキープしてくれてありがとう』と言われましたし、点を取れなくてもそういう働きでチームの勝利に貢献できたことが、自分自身、本当に嬉しく思います」

次ページゴールを奪うことだけがFWの仕事ではない、と身を以って証明。

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