「ゴミ収集車」というレッテルを…過小評価されてきたカゼミーロがいまやマドリーの大黒柱に――。【現地発】

2021年03月16日 エル・パイス紙

卓越した戦術眼は相手チームの弱点を見抜く際にも活かされる

アンカーながらベンゼマに次ぐチーム2位の公式戦6ゴールをマークするなど、得点力も発揮しているカゼミーロ。(C)Getty Images

 人間が物事に対して抱くイメージというのは心理的な衝動に過ぎない。しかし時にそれは魔法のような豊かな想像力を生み出す。

 常に黄金時代を過ごしている――。われわれがレアル・マドリーに対して抱くこの普遍的なイメージもその一例だろう。数々の伝説を打ち立てたその威光に照らされ、困窮に陥っても、金持ちクラブであり続ける。試合に負けても、勝者のメンタリティを誇示し、選手の半数近くが怪我で戦列を離れても、強さが失われることはない。

 マドリーの試合を見ていると、空虚さを感じて、興味が失せてしまうことがある。退屈だからではない。最終的にマドリーが勝ってしまうと思い込んでいるからだ。この調子だと、選手たちがスタジアムに姿を現すことなく、電話一本で勝利を収める日が訪れるかもしれない。

 いや、いうまでもなくそんなのは単なる偏見だ。しかしその理屈を超えた何かが選手たちに有形無形のパワーを与え、チームがどんなに不調に陥っても、誰彼ともなく「マドリーには注意を!」と呼びかける羽目になる。

 もちろんフットボールは勝負事であり、マドリーも期待に応えられないことはある。大惨事の発生だ。しかしその結果、クラブ内外に激震を走らせ、それがまたマドリーのゴージャスさを強調させることに繋がっている。人間の持つイメージの力を軽視してはならない。

【動画】カゼミーロがアトレティコとのダービーでマークした絶妙なアシスト
 ただ、その一方で偏見は時に物事を過小評価させる。カゼミーロもその被害にあった1人だ。ボール奪取に長けた彼を見て、われわれは「ゴミ収集車」というレッテルを貼った。ルカ・モドリッチとトニ・クロースというダブル司令塔を影から支える縁の下の力持ち役だ。

 しかし、カゼミーロは脇役に甘んじる器ではなかった。彼は一流の守備職人で、ピッチ上で発生するありとあらゆる緩んだネジを察知し、的確に締め直してしまう。しかし、同時にその卓越した戦術眼は、相手チームの弱点を見抜く際にも活かされ、今や大黒柱のひとりに成長した。チームリーダーとしての責任と自覚の芽生えは、試合中の表情を見れば一目瞭然だ。

 パーソナリティが強く、チームが苦境に追い込まれた場面ほど存在価値を示し、最近はフィニッシュでの貢献も目覚しいものがある。カゼミーロの実力は、ブラジル代表の不動のボランチという事実を踏まえても疑いの余地はない。

 実はここ数日、わたしはなかなか熟睡することができない。チャンピオンズリーグ(CL)ラウンド・オブ16アタランタ戦(アタランタのホームで行われたファーストレグはマドリーが1-0で先勝)のセカンドレグでカゼミーロを累積警告で欠くことを知ってしまったからだ。

文●ホルヘ・バルダーノ
翻訳:下村正幸

【著者プロフィール】
ホルヘ・バルダーノ/1955年10月4日、アルゼンチンのロス・パレハス生まれ。現役時代はストライカーとして活躍し、73年にニューウェルズでプロデビューを飾ると、75年にアラベスへ移籍。79~84年までプレーしたサラゴサでの活躍が認められ、84年にはレアル・マドリーへ入団。87年に現役を引退するまでプレーし、ラ・リーガ制覇とUEFAカップ優勝を2度ずつ成し遂げた。75年にデビューを飾ったアルゼンチン代表では、2度のW杯(82年と86年)に出場し、86年のメキシコ大会では優勝に貢献。現役引退後は、テネリフェ、マドリー、バレンシアの監督を歴任。その後はマドリーのSDや副会長を務めた。現在は、『エル・パイス』紙でコラムを執筆しているほか、解説者としても人気を博している。

※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙に掲載されたバルダーノ氏のコラムを翻訳配信しています。

次ページ【動画】カゼミーロがアトレティコとのダービーでマークした絶妙なアシスト(1分15秒~)

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事